No.10目次へ戻る
京都大学総合博物館平成13年特別企画展
「京都大学の遺伝子研究」
平成13年6月1日ー9月30日

 遺伝子の研究は近年目覚ましい進展をみせています。そして、この分野の研究の影響は私たちの生活のいろいろな分野に及んでいます。京都大学において、遺伝子の研究は世界のトップレベルにあるといっても過言ではありません。そこで、京都大学総合博物館の新館完成を記念して、京都大学の様々な研究室で行われている遺伝子に関する研究を学外にひろく知っていただくことを目的に、「京都大学の遺伝子研究」という特別企画展を開催いたしました。

 展示は各研究室を単位にして、研究内容を紹介したパネルとそれに関連した展示品で行っています。合計77の研究テーマが展示されています。これらのテーマを「基礎コーナー」「医薬コーナー」「倫理コーナー」「農学コーナー」「自然史コーナー」の5つにわけて、閲覧される方々に理解しやすいように展示パネルと展示品を配置してあります。

 基礎コーナーでは、ゲノム研究の基礎となるデータベース、生物体の構造その他の特徴と遺伝子の関係にかんした基礎研究が紹介されています。他のコーナーの研究の基礎となる研究ですので、会場の真ん中に展示して、どのコーナーからも参照できるように配置してあります。エネルギー理工学研究所、化学研究所、大学院生命科学研究科、大学院理学研究科、木質科学研究所が出品しています。

 医薬コーナーでは、基礎医学、臨床医学、薬学に関する遺伝子研究の成果と現状を展示しています。遺伝子から人体の諸機能を知る研究、病気と遺伝子の関係、遺伝子診療や遺伝子治療、再生医療と遺伝子の関係、薬と遺伝子の関係など、私たちに密接に関わってくる研究が紹介されています。大学院医学研究科、大学院生命科学研究科、放射線生物研究センター、ウイルス研究所、再生医学研究所、大学院薬学研究科、東南アジア研究センターが出品しています。

 倫理コーナーでは、ヒトゲノムや遺伝子解析研究によって進歩した生命科学と保健医療科学が社会との関わりのなかで直面する倫理的な問題点を指摘しています。大学院文学研究科が出品しています。

 農学コーナーでは畜産、醸造、農作物、水産、害虫防除などに関わる遺伝子研究の果と現状を展示しています。農学は食物生産に関する科学ですから、家畜の品種、農作物の品種、農作物の遺伝子組み替え、発酵に関する微生物の利用、農作物の管理に関わる植物病理、重要魚類の資源管理に関わる個体群構造、害虫防除に関わる植物と昆虫の関係など、多様な研究が紹介されています。大学院農学研究科が出品しています。

 自然史コーナーでは動物、植物、細菌の進化に関する研究成果を展示しています。また、動物の社会構造の解明に関係している遺伝子の研究も展示しています。生物の進化のあとを示す系統類縁関係の研究は、近年遺伝子の解析によって目覚ましい発展をみせていますが、それらの研究成果が紹介されています。これらの締めくくりとして、分子系統解析による生物全体の系統樹がしめされています。霊長類研究所、大学院理学研究科、大学院農学研究科、総合人間学部、大学院人間・環境学研究科が出品しています。

この企画展にあわせて、平成13年6月に公開講座「京都大学の遺伝子研究」をひらきました。以下に講師と講義内容の要旨を記しておきます。

6月23日(午前) 生物の進化をDNAで辿る
宮田 隆(大学院理学研究科 教授)

DNAは38億年の生物進化の情報を秘めた、いわば「分子化石」です。最近の分子系統学が明らかにした、これまでの常識と著しく違う事実を中心に、生物最古の進化から人類の進化まで、生物進化の道筋をDNAで辿って説明しました。

6月23日(午後) 京都大学のバイオインフォマティックス研究
五斗 進(化学研究所 助教授)

ゲノム配列決定後の生命情報のコンピューター解析を推進する拠点として、本年4月から京都大学化学研究所にバイオインフォマティックスセンターが設置されました。本センターでは、生命情報の知識ベースであるKEGGを始めとして様々なデータベースを構築し、これらを用いた解析手法を開発しています。これらのことをわかりやすく紹介しました。

6月30日(午前) 遺伝子研究とうまい牛肉
佐々木義之(大学院農学研究科 教授)

遺伝子研究はメンデルの法則の再発見からヒトゲノムの全塩基配列の解読に至るまでの長足の進歩を見せています。これらの研究は畜産物とくに牛肉の質の改良に関与しています。質的形質と量的形質をメンデル遺伝学に基づいて行った"第一世代"、DNAの解析に基づいて品種の研究を行っている"第二世代"に分けて牛の遺伝学的研究について紹介しました。

6月30日(午後) 遺伝子が語る生命像
本庶 佑(大学院医学研究科 教授)

ゲノムの情報は、ヒトの生命の設計図であるという話が広く伝わっています。このような説明からはゲノムの情報により生命のしくみはきっちりと規定されているように思われる方が多いと思います。しかし、ヒトのゲノムに含まれている遺伝子の数は予想外に少なく、ハエと比べても大差ないことが明らかになってきました。遺伝子、ゲノムとは何か。これに関係した新しい生命観と生命倫理の観点にたってクローン人間や遺伝子治療を始めとして遺伝子研究と私たちの社会の関係について述べました。

(文責:総合博物館教授 中坊徹次)