総合博物館客員教授(平成13年9月1日~11月30日)

田 祥鱗 博士
Dr Sang-Rin JEON



 平成13年の秋に京都大学総合博物館外国人客員教授として来日された田 祥麟先生は、現在、ソウルの祥明大学校自然科学大学の名誉教授で、大韓民国の動物学界・魚類学界の重鎮です。
 田先生の研究は海産魚の採集から始まり、その後淡水魚の分類学や生物地理学にうつり、朝鮮半島南部の淡水魚を徹底的に採集し、同時に各種の地理的分布をしらべあげました。その結果、韓国産淡水魚の新種や未記録種を多く発見され記載されただけでなく、韓国産淡水魚類相の生物地理学的境界線を発見されました。田先生の研究以前には、韓国の淡水魚の研究は分類学的な側面が甘く、また、各種の地理的分布もほとんど考慮されていませんでした。韓国の淡水魚は日本産や中国産のものと類縁関係が深く、韓国産各種の地理的分布は東アジアの動物相の起源をさぐるのに大変重要な情報を提供してくれます。田先生の韓国産淡水魚の生物地理学的研究は確かな分類学的研究と多くの採集地点に裏付けられており、画期的なものと内外で高く評価されています。そして、現在、韓国と日本の淡水魚の研究者は田先生の生物地理学の研究成果をふまえて、研究をすすめています。東アジアの動物相の研究というものを視野にいれると田先生の貢献は大変重要なものになっています。
 その他、日本の多くの魚類学者と東アジアの淡水魚や海産魚について共同研究をおこなっており、その研究成果は夥しい数にのぼっています。私も、5編の共著論文があります。  田先生は日本語に堪能であり、読み書き、会話はまったく日本人とかわらない、大変な知日家です。滞在中は、これまでに蓄積されてこられた豊かな知識と経験で、京都大学の研究活動や大学院教育に多大の貢献をしていただきました。
 10月29日に「韓半島中部以南の東海(日本海)側河川における淡水魚類相」と題して講演をしていただきましたが、多くの院生が聴講し、その後、館長を交えて懇親会を行い、おそくまで魚談義と自然史談義で楽しい時をすごさせていただきました。
 なお、先生が韓国で採集され、京都大学に滞在中に研究に用いられた魚類標本はすべて総合博物館に寄贈されました。これらの魚類標本はかなりの種数にのぼり、京都大学の自然史研究にとってたいへん貴重なものであり、これからの韓国と日本の魚類相の比較研究に多大の貢献をすることになるでしょう。
(京都大学総合博物館・中坊徹次)