外国人研究員

王 元青 教授(Dr. Wang Yuanqing)


 平成13年の暮れに来日され、年度末近くまで京都大学総合博物館外国人客員教授として滞在された王元青教授は、現在、中国科学院古脊椎動物古人類研究所の副所長を兼務されていますが、哺乳類古生物学の新進気鋭の”若手”研究者なのです。
 1964年1月29日生まれの38才。その彼が2年前から歴史のある由緒正しい研究所の副所長に”抜擢”されたのでした。文化大革命の”負”の遺産として、50代、40代の指導者層の欠如が、中国現代社会の問題点として指摘されています。30代後半の王博士が副所長に就任せざるを得ないのも、その問題のあらわれだと思います。
 平成11年4月から4ヶ月間、やはり総合博物館の外国人客員教授として赴任されていた同研究所の研究教授の李傳ケイ博士は王博士の元の指導教官だった方です。李博士は1934年の生まれ。現在68才です。1965年から始まった文化大革命の影響をもろに被り、李博士は2度にわたって下放政策による地方農村での生活を体験されています。学生時代はロシア語を第一外国語として勉強されたこともあって、英語はそれほど得意ではありませんでした。
 王博士は、文化大革命時の生まれです。一人っ子。19才の1983年に北京大学を卒業しています。勉強のよくできる、いわゆる”秀才”だったようです。第一外国語は、もちろん英語でした。大学院に進学してから李博士に師事し、哺乳類古生物学の専門領域に突き進み始めました。1986年に上記の研究所の研究助手、1988年に研究助教授、1993年に研究準教授、1997年に研究教授に昇進しています。かなり早いペースで順調に昇進を重ね、1999年12月から副所長を兼任しています。
 李博士と王博士の中間の世代が、本当に中国社会では欠落しているのです。同研究所にも、40代と50代の、本来なら所長、副所長として研究所の運営にあたらなければねらない世代が見あたりません。現所長も40代。そこで、30代の王博士のところに副所長のおはちがまわってきたという次第です。
 私と李博士は、いわば、アメリカのカーネギー自然史博物館長であった Craig C. Black博士の兄弟弟子の間柄にあたります。私と李博士は、いまも、中国東北部(旧満州)の遼寧省の白亜紀前期の哺乳類化石の発掘調査を、共同しておこなっています。これも Black博士が取り持った縁なのです。この遼寧省での調査の中国側の実戦部隊長が王博士というわけです。この共同調査の延長で、平成11年に李博士が、平成13年に王博士が外国人客員教授として京都に滞在されたのでした。
 お二人と接していると、現代中国史の一端がよく理解できる気がします。
総合博物館長 瀬戸口烈司