京都大学総合博物館での五ヶ月間

大韓民国慶北大学校自然大学生物学科 教授 朴宰弘


 桜の花が美しく咲き始めた3月31日に京都に着きました。韓国での忙しい生活とは違って,講議もなく,雑用もなく,誰にも邪魔されずに自分の仕事へ集中できる5ヶ月が始まったのです。
 2000年9月,韓国の科学技術処の21世紀のニューフロンティア自生植物利用技術開発事業が発足しました。そのなかに韓半島総合植物誌発刊事業の10年計画があります。2003年には韓半島の全ての維管束植物の科の記載,属の検索表,属の記載,種の検索表,種の正しい学名,原名,分布の情報などを含む,英文の『Generic Flora of Korea』が出版される予定です。韓半島の植物を詳しく研究した東京大学教授,中井猛之進先生の『Flora of Korea』が出版されたのが 1910年です。そのちょうど100年目に当たる2010年には『韓国植物誌』の完成を目指します。私が担当する分類群はキク科のタンポポ族(Lactuceae)とキク族(Anthemideae)で,両方合せると20属82分類群になります。
 4月1日にさっそく,京都大学理学部植物学教室の先輩でチング(韓国語で「友達」の意味)でもある永益助教授から総合博物館を案内して頂きました。私が主に滞在した第2共同研究室は吉田山と大文字山が見える見晴らしがよい4階にあり,ひろびろした部屋です。情報資料室には今年亡くなられた京都大学名誉教授でキク科の権威である北村四郎先生から寄贈された,数多くの貴重な文献がありました。その中に北村先生の自筆で書かれたさまざまな見解を拝見できたことは,非常に印象深く,また大変ありがたいことでした。第3収蔵室(標本室)には北村先生自身が研究した標本,19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて日本を中心に大量の標本を採集したフランス人宣教師フォーリーの標本,学名の基準になるタイプ標本,私達が今行くことができない北朝鮮の標本など,研究を進めるうえで不可欠な貴重な標本がたくさん収蔵されておりました。海外の植物標本館にあるタイプ標本のマイクロフィッシュもありました。 標本を写真標本と図書を参考して,分類群をじっくり観察し,他の研究者の考え方を考察し,韓国のタンポポ族とキク族を整理してみました。
 その結果,タンポポ族のなかに13属 41分類群,キク族には 11属 55分類群を認めることができました。分類群の取り扱いに付いて今まで解決の糸口が掴めず悩んでいたIxeris chinensis subsp. versicolorの問題も解決しそうな見込みもつきました。たくさんの標本をじっくりと検討する機会をもつことができたことで,一番難しい分類群の一つといわれているヨモギ属を研究してみたいという意欲がでてきました。
 一方,大野先生のお世話で平成14年7月6日に総合博物館のレクチャシリーズNo.1として,『鬱陵島の植物と山菜』という題で一般向けの講演も行いました。 小学生5年生から82歳のお年寄りを含めた27人の一般の人々があつまりました。講演が終わった後に受けた数多くの質問は水準の高いもので,参加者達の実力に感激しました。
 京都大学総合博物館はアジアのキクを研究するに一番うってつけの場所であることは間違いないと思います。このような素晴らしい機会を与えていただいた館長をはじめとする関係者皆様に深くお礼を申し上げます。
(大韓民国慶北大学校自然大学教授・植物系統分類学)