京都大学

夏休みサイエンス教室週間(第2回目)の開催


 京都大学総合博物館では、昨年に引き続いて、今年も夏休みの終わり8月28日から9月1日にかけて、「夏休みサイエンス教室週間」を催した。夏休みの児童・生徒を主な対象中心にした催しは、1999年の「大文字山の科学」以来これで4年連続、「夏休みサイエンス教室週間」は、昨年、に続いて2回目ということになる。今回は、従来にも増して館内外から多彩な講師陣の協力を得ることができ、小・中学生を中心に、シニアの皆さんにも理系・文系の内容を楽しく学習をしていただける充実したプログラムを提供することができた。
 とくに、8月30日に一日を使って開催した「ロボット実験室」は、総合人間学部助教授の酒井敏氏と、同学部講師北原達正氏の2名が催しの趣旨に賛同して開催してくださったものである。LEGO マインドストーム基本セットと赤外線放射温度計を使って、ロボットの組み立てからプログラム、試験走行まで、すべて参加者自身で行ってもらった。そして、館内にしつらえた「火星」の荒野を走り抜けて「火星の極地方」にある氷冠(実際にはかち割り氷)に到達するという内容の教室であった。「誰でも簡単にできるわけではありませんので、ちょっぴり覚悟してきてください。やる気があれば、小学生高学年(5,6年生)でもできると思います。」と募集広告にうたって、やる気のある参加者を募った。実際みんな熱心に課題に取り組み、参加者全員がゴールにたどり着けた。
 また、8月31日(土)の午前中は、総合博物館助手村山亜希氏が講師となって、「江戸時代の地図」というプログラムを開催した。京都大学が所蔵する多数の江戸時代の京都の地図をじっくり観察し、そこには現代の私たちが知っている「正しい」地図とは全く異なる、江戸時代の人々が思い描いたイメージの世界があることを探った。子供達には、昔の人たちが私たちとは違う世界観をもっていたといってもすぐには理解しにくいのであるが、このプログラムでは、冒頭で世界地図をフリーハンドで描く実習を取り入れて、本来客観的であるはずの地図も実際には、身近なところは詳しく、そうでないところはかなりいい加減にしか理解していないことをまず参加者に体感してもらった。その結果、江戸時代の人たちが私たちとは違う京都の地図を心に描いていたことなど、その後の解説がすんなり理解でき、好評であった。村山助手のアイデアの賜物であった。
 9月1日の午後には、工学研究科教授・西本清一氏が講師となって、中高生を対象に「光と物質が織りなす色の科学」と題したプログラムを開催した。西本氏には、すでに総合博物館で2度の科学教室の講師を務めていただいている。ロウソクの科学、磁石の科学などに引き続き、今回は『色』を主題に採り上げたプログラムを開催してくださった。原子や分子の中で運動する電子に光が様々な構造をもつ物質に作用しする結果、『色』が様々な姿をして現れることを説明された。量子力学にも立ち入る高度な内容であったが、美しい色を示すモルフォチョウのハネなど身近な題材を使って、判りやすく解説された。最後に参加者は、黒色のインクをペーパー・クロマトグラフィーで3色の染料に分解し、「実験を通じて現象を観察する→何が起こっているかを想像する→現象を説明するための考え方を示す→その考えを基礎にして新しい実験を組み立てる」という考え行動する手順の初歩を学んだ。
 その他、8月28日には、午前と午後にそれぞれ児童と成人を主な対象とした「総合博物館の化石展示見学ツアー」を、8月30日の午後には、小学生高学年を対象に「生命の進化を探るー三葉虫をさわってみよう」の催しも開催した。いずれも、大野照文が講師を努める、定番的催しである。
 以上、のべ6つのプログラムの募集定員は、計185名であったが、過去3年の実績もあり、以前に館の催しに参加した経験のある人も含めた383名の申し込みがあり、結果的に192名に参加していただくこととなった。毎回のことながら、このような催しを続けて開催して欲しいという要望がどのプログラムについても述べられるくらい参加者の満足の度合いは高かった。ご協力いただいた先生方、応募 方に感謝するとともに、今後、さらに館内外の諸先生がたの協力を得ながら、京都大学総合博物館ならでの質の高いプログラムを数多く提供してゆければと念じている。
(京都大学総合博物館教授 大野照文)


「江戸時代の地図」。博物館常設展示で京都の古地図も見学した。



「光りと物質が織りなす色の科学」講義風景。