「ジュニアもシニアも楽しめる! 総合博物館 レクチャー・シリーズ(Honzou-e)no.1

「鬱陵島の植物と山菜」開催報告


 ニュースレターにもほぼ毎回紹介しているように、京都大学総合博物館では、折に触れ研究・教育の成果を広く市民に伝える活動を行っている。その一環として教官が市民向けの講演会を館内外で行ってきている。提供される話題は館の教官が自ら、あるいは学内外の優れた研究者と共同で行っている研究に基づいている。共同研究、とりわけ国際的共同研究を可能とするため総合博物館には、客員研究員のポストが用意されている。毎年数名の海外の著名な研究者を招ねいているが、平成14年4月1日から~8月1日にかけては、慶北学校自然科学大学生物学科教授・朴宰弘が博物館に滞在された。先生は、植物系統分類学がご専門である。
 韓国では、科学技術処の21世紀ニュー・フロンティア自生植物利用開発事業の一環として、「Flora of Korea(韓半島綜合植物誌)」を編むという事業が進んでおり、2010年の完成を目指して編纂が続けられているが、先生はその指導的立場におられる。そこで、お願いしたところ鬱陵島の植物誌についてお話いただけることとなり、平成14年7月6日に「鬱陵島の植物と山菜」というタイトルで講演会を開催出来る運びとなった。
 先生は、中井猛之進(なかいたけのしん)博士(1882~1952)による90年余り前の「朝鮮植物誌」の出版などに触れられながら、日本人も深く関わった韓国の植物研究の歴史をたどり、韓半島綜合植物誌発刊事業と韓国における植物分類学の現在の状況を紹介された。そして、日本海に浮かぶ小さな島でありながら、他で見ることのできない31種もの固有種を有する鬱陵島の植物相について、沢山のスライドを使ってわかりやすく紹介してくださった。
 また、孤島故に食料事情の厳しかった鬱陵島では、生活の知恵として様々な植物を山菜として利用する独特の食文化が育まれたが、この点についても、興味深いお話をいただいた。講演は、流暢な日本語で、ユーモアも交え、さらには講演の途中でこの日のためにわざわざ鬱陵島からとりよせていただいた特産のカボチャ飴を振る舞ってくださるなど、参加者は楽しみながら日本では初めての鬱陵島の植物誌の紹介を聞くことができた。会場は、当博物館が誇るミューズラボに設定したが、一般市民25名を含む40名ほどの参加者で、客席の半円形ベンチがほどよく埋まった。ミューズラボという舞台仕立てと朴先生の絶妙な話術があいまって、普段にもまして好評な公開講演会となった。快く引き受けていただいた朴先生に心からお礼を申し上げる。
(京都大学総合博物館教授 大野照文)