表紙の資料写真について



カワゴケソウ科の液浸標本

 カワゴケソウ(川苔草)科は奇妙な植物である。花をつける植物(被子植物)でありながら、渓流の水中の岩にへばりついて生え、一見してどこが根でどこが葉だかわからないまさにコケのような植物だ。資料の採集も分類も難しい。熱帯に比較的多く、日本では鹿児島県と宮崎県に数種が分布する。この奇妙な植物を日本で最初に「発見」したのは昭和2(1927)年、今村駿一郎(当時京都帝国大学大学院生、のちに農学部教授)だが、その報告とほぼ同時に小泉源一(当時京都帝国大学理学部助教授のちに教授)が土井美夫(鹿児島県立伊集院中学校教諭)の採集品に基づいて新種記載したため先取権争いの様相を呈した。総合博物館には小泉が研究した土井採集の標本が液浸標本として保存されている。ポドステモンとは変な名前だが、小泉が当時カワゴケソウ科をラテン名をそのまま用いてポドステモン科と称していたことによる。写真の標本は植物体が付着していた岩を割って、破片ごとに液浸にしたもの。