総合博物館客員教授(平成15年7月10日~10月9日)

アラン・ハワード・サヴィツキー博士

Dr Alan Howard Savitzky

 アラン ハワード サヴィツキー博士は,アメリカ合衆国・コロラド大学で生物学を修められた後,同・カンザス大学で生物学の修士,博士の学位を取得されました。現在は,同・オールドドミニオン大学生物科学教室の助教授を務められています。今回,「アジア産ユウダ亜科ヘビ類における頚腺の個体発生および解剖学的研究」をテーマに,客員教授として総合博物館に3ヶ月間滞在されました。
 氏のご専門は,脊椎動物の機能形態学で,中でも爬虫類に強い関心を抱いています。これまでも捕食や防御と関連した形態,すなわち,牙からの毒液注入システム,蝶番状の歯,脊椎骨の棘突起などの進化や発生について研究してきました。また,野外生態にも興味をもち,シンリンガラガラヘビ地域個体群の移動,採餌,繁殖などのデータを10年間近くにわたって蓄積し,その保全対策に役立ててきました。
 さて,氏は来日中はユウダ亜科ヘビ類を主な対象として,頚腺の胚発生過程や頚腺周辺の毛細血管網構造の解剖学的研究を進めました。このグループに属するヘビとして,京都ではヤマカガシがあげられますが,氏は滞在中にヘビの採集のため野山にも出かけ,さらに標本の作製,観察,撮影,分析などを毎日,夜遅くまで行っていました。個体発生学や解剖学の研究では,顕微鏡下での職人芸ともいえるような微細な作業も多いのですが,先生が驚くほどの集中力と器用な手さばきで研究を進めていたのには圧倒されました。これらの研究は,アメリカに帰国されてからも継続していて現在進行中のものですが,いずれ近いうちにその成果が発表されることと思います。
 また,氏は京都大学総合博物館や理学研究科において数回のセミナーを行うなど,積極的に京都大学の研究者との交流をはかり,大学院生の研究にも多くの示唆を与えてくださりました。アメリカ合衆国の自然史博物館の現状についてご紹介いただくなど,総合博物館の脊椎動物の標本の維持管理についても大いに参考になる知見が多数得られました。また,京都の他,関東地方や沖縄でも爬虫類のフィールド調査や,研究者との交流を行い,双方にとって有益なものとなりました。
 一方,日本の伝統文化や建築物などにも強い関心を持たれたようで,休日には京都周辺の観光をするなど,充実した3ヶ月間だったようです。日本の食べ物もたいへんお気にめされていましたが,納豆だけは苦手だったようです。今回がはじめての来日でしたが,氏は京都大学がとても気に入ったようです。今後,新たなる共同研究を生み出すことにつながることも期待されます。

(本川雅治)


沖縄でのヘビ類の野外調査


顕微鏡を使った標本の作製