総合博物館レクチャーシリーズ

第11回「コウモリの生態」スピーカー:林 良恭先生(台湾・東海大学・副教授)、平成15年11月1日(土)


林先生は、平成13年6月1日~8月 31日まで客員教授として赴任されるなど、京都大学総合博物館にとってたいへんなじみ深い先生です。平成15年の秋も三ヶ月あまり京都に滞在され、博物館で研究されました。今回は先生のご専門のコウモリのお話をしていただけました。コウモリ類は哺乳類の4分の1をしめる1100種が世界から知られている大きなグループで、夏の夕方になると,京都の住宅地でもアブラコウモリの大群が見られるように身近な存在です。コウモリ類の多くは洞窟や森林の樹洞などに生息し,夜間に飛翔しながら昆虫などを食べ,冬眠をするようです。また、コウモリ類の小さな体は飛翔には有利であるが,体温調節には不利で、それを補うためのいくつかの生理学的改変見られます。さらに、超音波を発しながら,その反射で障害物や餌の位置を見つけたり,個体認識を行うなど,その独特の行動も発達させていること、また、台湾では蝙蝠の「蝠」は、「福」に通ずるとして好ましい生き物であると考えられていることなどお話しいただきました。流暢な日本語も相まって聴衆を魅了されました。

第12回「メコン川でオオナマズを追いかける」スピーカー:荒井修亮先生(京都大学大学院情報学研究科・助教授))、平成15年11月29日(土)

荒井先生は、最新技術を使った発信器と受信機を組み合わせて動物の位置や水温などの情報を時事刻々に入手する技術を開発され、動物の生態を次々に明らかにされています。研究成果は、生態学、資源生物の保護や増産、あるいは絶滅危惧種の保全まで、幅広い分野に役立っています。今回は、タイ語で「巨大な魚」を意味するプラ・ブク(メコンオオナマズ)Pangasius gigas (Chevey) の生態をメコン川で追跡されたお話をいだだきました。世界最大の淡水魚(最大、体長3m、体重293kg)で、貴重な動物タンパク資源ですが、その数は、極めて減少しているそうです。そこで、タイ国水産局の要請に応えて、保全の基礎データとして2001年より回遊生態の解明に着手されました。魚に取り付ける超音波発信機と受信機の組合せを工夫することによって、発信機を取り付けて放流後6日~9日目に上流60km地点までさかのぼったり、あるいは放流後7日目に50km下流まで下ったりと、大きなスケールでの回遊を行っているらしいことなどが明らかになってきました。実際の発信器、受信機などもお持ちいただけ、実感あふれるレクチャーとなりました。

第13回「日本人と木材、つきあいの歴史」スピーカー:鈴木 三男 先生 (東北大学総合学術博物館館長)、平成15年12月3日(土)

東北大学総合学術博物館館長の鈴木三男先生のご専門は、顕花植物の形態や構造・機能の進化学的研究で、様々な植物の木部構造の進化や環境との関連に焦点をあてて精力的に研究されています。また、遺跡から出土する植物遺体(特に木材遺体)を調べ、古植生の復元と遺跡人の植物利用の解明にも力を注いでおられます。このような幅広い研究成果をもとに人と木材のおつきあいの歴史についてお話いただきました。東日本には亜寒帯性の針葉樹林,西日本には冷温帯性の落葉樹林が広がっていた約2万年前の氷河期の寒さが厳しかった頃からお話は始まり、弥生時代は水田稲作に使われた木製農具がほとんどがカシ類の材で作られたカシの時代であったこと、律令制や佛教に代表される大陸の政治・文化の流入とともに大きな建物を立てるためにヒノキ,スギ,モミなどの針葉樹が使われたこと、しかし平安時代の終わり頃にはこの天然林が枯渇し,その後は積極的に造林して木材を生産する人工林の時代へと移って言ったことなどをお話いただき、私達日本人と森,そしてその生産物である木材のつきあいを概観することができました。

第14回「今西錦司の遺業-新たな展望」パメラ・アスキス先生(カナダ・アルバータ大学教授 、京都大学総合博物館客員教授)、平成16年1月7日(水)


パメラ・アスキス先生は1981年に初めて日本を訪れられ、日本の霊長類学研究者の方法論や理論的背景を調査されました。このときの滞在は3年に及び、犬山の霊長類研究所と京都の人類進化講座で研究されました。そして、京都大学でおこなわれていた「自然科学セミナー」で初めて今西錦司先生に出会われ、これをきっかけに、世界にも大きな影響を与え続けている京都大学霊長類学の研究の基礎をつくられた今西先生の思想に共鳴され、今西錦司についての研究を開始されました。2002 年には日本の共同研究者とともに今西先生の最初の著作「生物の世界」(初版1941年)の英訳に携わられました。 今回の滞在では、今西先生が学長を務められた縁で岐阜大学に保管されている膨大な蔵書を調査されています。蔵書は、1919年から1980年にわたり、総数2900点に及びます。今西先生が読まれた洋書も500点近く含まれており、パメラ先生は、その中に残る今西先生直筆の書き込みを丹念に調べておられる最中です。洋書の内容と、そこに記された書き込みを比較することによって、今西先生の生態学、動物社会、そして社会人類学などについての思想がどのように醸し出されていったのかをより正確に跡づけることが可能となりました。今回のセミナーではこれら最新の研究成果をお話いただきました。調査によって、1)今西先生の思想形成には、西洋の生物学や日本の哲学などの影響がはっきりとあること、しかし、2)その後の独自のフィールド調査によって自らの思想に肉付けをされたことなどを紹介されました。膨大な原典を克明に学んでおられる若き頃の今西先生を彷彿とさせる迫力の講演でした。