公開講座
総合博物館レクチャー・シリーズ

第15回「マダガスカルの爬虫類とその多様性」
疋田 努先生(京都大学大学院理学研究科・助教授)
平成16年2月8日(土曜日)

 疋田努先生は,京都大学大学院理学研究科で爬虫類の分類学・系統学・生物地理学の研究をされています。爬虫類をつかまえる名人と異名を取るほど野外での調査経験を豊富にお持ちです。最近では,ご自身の研究成果も含めて「爬虫類の進化」という著書を東京大学出版会から出されています。
 マダガスカル島は世界で第4番目の大きな島で,その面積は日本の約1.6倍にあたります。インド洋上にあり,もっとも近い大陸であるアフリカとはモザンビーク海峡で約400km隔てられているだけですが,その生物相はアフリカとは非常に違っています。この島はジュラ紀の中期,約1億6千万年前に,南のゴンドワナ大陸が,分裂した際に,インドとともにアフリカや南アメリカから分離したと考えられている非常に古い島なのです。このためマダガスカル島では,多くの生物が独自の進化を遂げています。哺乳類ではキツネザル類やテンレック類,鳥類ではオオハシモズ類が有名です。爬虫類では,カメレオン類や昼行性のヒルヤモリ類が多様化しており,ブキオトカゲ類やオビトカゲ類など独自のグループが分布しています。奇妙なことにアフリカには分布しない南アメリカと共通のボア類やヨコクビガメ類も生息しています。マダガスカルの自然とそこに生息する爬虫類を紹介しながら,マダガスカルの爬虫類の分類・系統学研究について紹介いただきました。


第16回「京都大学の所蔵する鉱物標本の整理・登録とデータベース作成まで」
豊 秋先生(独立行政法人産業技術総合研究所地質調査総合センター地質標本館前館長)
平成16年3月27日(土曜日)

京都大学総合博物館には,スペースの都合から皆さんに見ていただくことの出来ない貴重なコレクションが沢山あります。日本産を中心とする鉱物標本類もその一つです。そこで,今回は,鉱物学の第一人者であり,また全国日本産鉱物コレクションの整理・登録に尽力されておられる豊(ぶんの)先生に鉱物のお話をお願いしました。
鉱物に限らず,学術標本資料は,整理・登録が行き届いてはじめて,研究や展示に利用できます。なお,レクチャー当日京大の鉱物標本コレクションの一部を特別公開しました。展示にあたっては,財団法人益富地学会館の藤原卓氏の協力をいただきました。
大学博物館は大学の行っている研究成果を社会に発信する役割を持っている事は言うまでもありません。特に自然科学分野における標本の存在は大きく,地球科学における膨大な岩石・鉱物・化石などの地質標本は成果の一部として博物館や大学の研究室に蓄積されています。また大学が地球科学分野の教育と研究を開始すると同時に教材として購入された大量の地質標本はきわめて質の高いコレクションとして,100年近い歴史を持つものもあります。これまでに東京大学,京都大学,秋田大学,大阪大学などの大学博物館の鉱物標本のデータベース作成に関わってこられましたが,これに含まれる情報として次のような項目を含むデータカードの作成を行っています。即ち,一つの標本に対して,登録番号,分類,鉱物名,産地,産状(成因),簡単な標本の記載,採集者,寄贈者,など多岐に亘り標本を見る為の参考になるよう留意されてこられました。このようなご経験から,京大の標本のすばらしさを紹介していただくとともに,まだ十分では無い台帳づくりを急ぐ必要性も述べていただきました。


第17回「琉球列島の化石鳥類相の研究-化石から探る,生態系の過去・現在・未来-」
松岡 廣繁先生(京都大学大学院理学研究科・地質学鉱物学教室 助手)
平成16年4月24日(土曜日)

 今回は,鳥類化石の専門家である松岡廣繁先生に,沖縄特有の鳥の仲間の先史時代の様子についてご講演いただきました。鳥の分布を手がかりに鳥が住むことのできた森林の生態系にまで迫ろうとする意欲的なお話です。
 琉球列島,とくに沖縄島のヤンバルや奄美大島には,多くの固有種が生息する森林が存在します。その成立・変遷史を解明するため,3万~1万数千年前(最終氷期極相期頃)の化石を調べたところ,ヤンバルクイナ・ノグチゲラ・アマミヤマシギ・オオトラツグミ・ルリカケスなどの,ヤンバルまたは奄美諸島に生息するすべての固有種が,かつては沖縄島の南部まで生息したことが判明しました。また,オオトラツグミとアマミヤマシギは,現在まったく記録のない宮古島からも発見されたのです。かつては,中部琉球全体はもちろん一部宮古諸島にまで,現在のヤンバルと奄美を合わせた均質性を持つ,固有度の高い鳥類相が広がっていたと考えられます。これらの鳥の多くは森からでることがありません。どうやら,森林の減少が鳥類相の衰退をもたらしたようです。鳥の保全のためにも森林保全が重要であることを3万年の歴史を通じて学ぶことのできた講演でした。

第18回「日本人と森」(総合博物館・フィールド研共同企画)
竹内典之先生(フィールド科学教育研究センター教授)
平成16年6月5日(土曜日)

 総合博物館では,平成16年6月2日(水) ~8月29日(日)にかけて「森は海の恋人」の世界へのいざないと名付けた企画展示を開催中です。日本人の心のふるさとである巨木がたたずむ豊かな森,アユが踊る清流の里,生命あふれる渚の満ち干。私達日本人の心のふるさとは,どこへ行ってしまったのでしょう。森と里と海のつながりは,日本と世界の未来の子供達の財産です。平成15年4月に発足したフィールド科学教育研究センターは,森と里と海のつながりを再生させる新たな科学の誕生に挑戦しています。その姿を数多くの展示品を交えてわかりやすく展示したのが今回の企画展です。期間中フィールド研の先生方が展示関連の講演と展示会場の案内をしてくださいます。その第一弾として竹内先生に講演と展示解説をしていただきました。竹内先生は,森林資源の持続的な管理理論の研究等を通じて手入れされなくなって劣化の著しい日本の人工林・二次林の再生に取り組まれています。
 日本人は,常に身の回りにあった森林から燃料,木材,きのこ,木の実,山菜などの恵みを受けてきました。また,加工が容易で性質も優れた木材を,燃料として,建築,造船,家具,器具,道具などの材料として幅広く利用することによって,「木の文化」といわれる日本の文化を育んできました。しかし,輸入材との競争から,針葉樹中心の人工林は手入れが行き届かなくなっているのが現状のようです。質のよい材を,自然と調和的に生産する方法など,先生が携わってこられた研究を中心にお話いただきました。