公開講座
レクチャー・シリーズ30回目開催

 平成16年12月12日、総合博物館「恒例」のレクチャー・シリーズが30回目を迎えた。レクチャー・シリーズは、平成14年7月6日、客員教授として総合博物館に滞在されていた大韓民国慶北学校自然科学大学生物学科教授・朴宰弘先生の「鬱陵島の植物と山菜」という講演で始まった。韓国植物分類学の第一人者であり、流暢に日本語を語られる先生に一般市民向けの講演をお願いしたところ快くお引き受けくださったのがきっかけである。
 博物学的研究や、それを行う博物館の重要性が、社会に認知されていないことは、「博物館行き」という言葉があることから容易に推察される。展示が静的に見えること、貴重な学術標本資料もお蔵入りした古くさいものという皮相的な理解に基づく、しかし根深い誤解が社会にはある。実態はこのような先入観とは全く逆で、博物館では、貴重な学術標本資料を研究・教育に使いやすい状態に維持するために恒常的にメンテナンスが行われ、それをもとに活発な研究・教育活動がなされている。また、博物館から研究者達が世界中に出かけ、調査・収集活動を精力的に行っているのである。
 総合博物館では、組織が発足した平成9年から、博物館にまつわるこのような誤ったイメージを打破するための方策が練られ、対策の一つとして、平成12年に竣成した総合博物館自然史常設展示場には、約50名収容の円形劇場が設置されミューズラボと名付けられた。ミューズラボは、著名な研究者が最新の博物学的研究について親しく一般市民の人たちにレクチャーし、博物学の楽しさや博物館の重要性を積極的に一般市民に情報発信する拠点と位置づけられた。
 最初のレクチャーには、一般市民25名を含む40名ほどの参加者があり、客席の半円形ベンチがほどよく埋まった。先生の講演内容については、ニュースレターno.13に記録があるので省略するが、ミューズラボという舞台仕立てと朴先生の絶妙な話術があいまって、大変な好評を博し、一般参加者からは継続の希望が多く寄せられ、二度・三度と回を重ねて30回に至った訳である。下に30回のレクチャー・シリーズの記録を掲載しておく。
 レクチャー・シリーズの案内ビラには、当初”honzo-e”というサブタイトルが控え目に書かれていた。これは、市民がこぞって希有な物産・自然物を自慢し合った江戸時代の博物学ブームにあやかったもので、博物館を生き生きした場にしたいとの夢が込められたものであった。最近では、このサブタイトルは外されている。回を重ねることによって夢に近づきつつあるとの心証を得たことが理由である。
 回を重ねるに従って多様な興味をもつ人々が参加されるようになった。そこで、レクチャーの話題が特定の分野に偏らないよう心がけたが、30回のレクチャーのテーマは、動物、植物、農学、魚学、地球科学、古生物学、考古学、リモートセンシングなど幅広い分野にまたがることとなった。また、ビラには、レクチャーごとに、どのような年齢、興味の人をターゲットとするかを明記して、案内を受け取った人が参加するかどうか判断しやすいような工夫も施した。「ジュニア・レチャー」、「シニア・レクチャー」といった対象年齢がはっきりわかるサブタイトル、さらには、学習意欲のとりわけ旺盛なグループ向けの、大学の集中講義レベルの高度な内容の「とっておきレクチャー」などである。
 さらに、今年に入ってからは、企画展と連携したレクチャーも開催することができた。具体的には、フィールド科学教育研究センターが主担された平成16年春季企画展「森と海と里のつながり-京大フィールド研の挑戦-」開催の折り、フィールド研の先生方の協力を得て、レクチャーと展示ガイドを組み合わせた「レクチャー・ガイド」を6回開催したことである。先生方の献身的努力によって毎回午前・午後の2回レクチャーとガイドを敢行した。とりわけその多くが夏休みに開催ということもあって多くの参加者を得ることができ、レクチャー・シリーズのファンが一挙に増えることとなった。こうして、試行錯誤しながらも回を重ねるごとにレクチャー・シリーズはその開催手法や提供される話題に広がりや深みをつけながら進化途上にある。
 レクチャー・シリーズには遠方の大学や研究所、企業等から講師をお願いしている。幸い今年度は、文部科学省および京都府から、それぞれ、生涯学習機会や小中学生の学習機会を提供する趣旨の事業委託を受けることができた。そこで、レクチャー・シリーズのいくつかについては、これらの委託事業の一環として開催し、先生をお呼びするのに、あるいはレクチャーの準備・開催にお手伝いいただく学生諸君に多少報いることができるようになった。レクチャー・シリーズをはじめとする総合博物館の社会に向けた活動に対して国や地方自治体からの認知をいただきつつあることは大変うれしいことである。
 館に義務づけられた業務ではなく、しかも原則土曜日(時には日曜日開催)の行事である。開催に際しては、ほぼボランティアで講演いただくスピーカーの諸先生には大変甘えさせていただいている。教員だけでなく土日出勤の事務職員、あるいはお手伝いくださる学生さんたちにとってもかなりの負担をかけている。また、広報についても京都大学広報課の職員の皆さんや京都大学の記者クラブの皆さんにずいぶん甘えさせていただいている。有り難いことには、皆さんには趣旨をよく理解してくださり、ご協力いただいている。おかげで最近ではレクチャー・シリーズに何度も参加してくださる、いわゆるリピーターの方が増えてきた。シニアの方々、また小学生・中学生の親子連れの方々などで、毎回楽しそうにレクチャーを聴かれ、また時には鋭い質問をされ、レクチャーを盛り上げていただき、打ち解けて聴講できる雰囲気が醸し出され、初めて参加の人たちもやがてリピーターとなられる触媒の役目を果たしていただいている。
 10月19日には京都新聞の読者の欄に、リピーターの女性の方からの投書が掲載された。一部を抜粋させていただく。「最初は植物の話しで興味津々、私にもわかった、、、先日のレクチャーシリーズno.26「碩学・貝を語る」もおもしろく楽しかった。、、、京大なんてとても近寄れないと敬遠していたけれど、どのレクチャーも勉強になり、、、分かりやすく話してくださると、何でだろう?どうして?という謎が解けていった。そして、学習することの大切さに気付いた。人間死ぬまで勉強、生涯学習だ。好奇心と少し学びたい気持ちと健康であれば、チャンスが多い世の中だ、、、」。レクチャー・シリーズに関わってきた全ての関係者に対するお褒めの言葉として有り難く受けさせていただくとともに、総合博物館において、これからもチャンスを広げるレクチャー・シリーズを開催し、参加される皆さんのご期待に応えてゆきたい。

レクチャー・シリーズ

第1回「鬱陵島の植物と山菜」
スピーカー:朴 宰弘先生(大韓民国慶北学校自然科学 大学生物学科教授)
平成14年7月6日(土)

第2回「7億年前、地球は凍結した?」
スピーカー:川上紳一先生(岐阜大学教育学 部地学助教授)
平成14年10月26日(土)

第3回「未知なる生物の宝庫-メイオベントス」
スピーカー:白山義久先生(京都大学 大学院理学研究科教授・附属瀬戸臨海実験所所長)
平成14年11月30日(土)

第4回「ヒマラヤ高山の温室をつくる植物、セーターを着る植物」
スピーカー:大場秀章先生(東京大学総合研究博物館・教授)
平成15年2月22日(土)

第5回「Down to the root of the animals(化石から解き明かす多細胞動物の起源)」(英語・日本語翻訳付)」
スピーカー:M.A.フェドンキン先生(Prof. M.A. Fedonkin)(ロシア科学アカデミー・古生物学研究所教授)
平成15年3月15日(土)

第6回「地下生物圏の秘密を探る」
スピーカー:北里 洋先生(海洋科学技術センター 固体地球統合フロンティア研究システム・地球システム変動研究領域・領域長)
平成15年3月29日(土)

第7回「原人の世界」
スピーカー:山中一郎先生(京都大学総合博物館・館長)
平成15年4月26日(土)

第8回「Architekten und Gӓrtner im Mikrokosmos (大型有孔虫・熱帯の庭師にして建築家)」(ドイツ語・日本語通訳付)
スピーカー:ヨハン・ホーエネッガー先生(Prof. Dr. Johann Hohenegger)(ウィーン大学古生物学研究所所長)
平成15年5月18日(日)

第9回「ランビルの森 -熱帯雨林の生物学-」
スピーカー:永益英敏先生(京都大学 総合博物館・助教授)
平成15年5月31日(土)

第10回「化学の目で見た生態系-アリの社会と熱帯雨林生物共生系を中心に-」
スピーカー:山岡亮平先生(京都工芸繊維大学応用生物学科教授)
平成15年9月27日(土)

第11回「コウモリの生態」
スピーカー:林 良恭先生(台湾・東海大学・副教授)
平成15年11月1日(土)

第12回「メコン川でオオナマズを追いかける」
スピーカー:荒井修亮先生(京都大学 大学院情報学研究科・助教授)
平成15年11月29日(土)

第13回「日本人と木材、つきあいの歴史」
スピーカー:鈴木三男先生 (東北大学総合 学術博物館館長)
平成15年12月3日(土)

第14回「今西錦司の遺業-新たな展望」
スピーカー:パメラ・アスキス先生(カナダ・アルバータ大学教授 、京都大学総合博物館客員教授)
平成16年1月7日(水)

第15回「マダガスカルの爬虫類とその多様性」
スピーカー:疋田 努先生(京都大学 大学院理学研究科・助教授)
平成16年2月8日(土)

第16回「京都大学の所蔵する鉱物標本の整理・登録とデータベース作成まで」
スピーカー:豊 秋先生(元工業技術院地質調査所地質標本館館長)
平成16年3月27日(土)

第17回「琉球列島の化石鳥類相の研究~化石から探る、生態系の過去-現在-未来~」
スピーカー:松岡 廣繁先生(京都大学大学院理学研究科・地質学鉱物学教室 助手)
平成16年4月24日(土)

第18回「日本人と森」
スピーカー:竹内典之先生(京都大学フィールド科学教育研究センター教授)
平成16年6月5日(土)

第19回「森林生態系のしくみ-水土保全機能について」
スピーカー:徳地直子先生 (京都大学フィールド科学教育研究センター助教授)
平成16年7月10日(土)

第20回「魚の赤ちゃんの大冒険」
スピーカー:田川正朋先生(京都大学フィールド科学教育研究センター助教授)
平成16年7月31日(土)

第21回「森からの宅配便」
スピーカー:芝 正己先生(京都大学フィールド科学教育研究センター助教授)
平成16年8月7日(土)

第22回「若狭の海の水中散歩」
スピーカー:益田玲爾先生(京都大学フィールド科学教育研究センター助教授)
平成16年8月14日(土)

第23回「無用の用“自然?環境?森の働き?”」
スピーカー:中島 皇先生(京都大学フィールド科学教育研究センター講師)
平成16年8月21日(土)

第24回「植物を求めて中国秘境探検」
スピーカー:内貴章世先生(大阪市立自然史博物館学芸員)
平成16年9月18日(土)

第25回「南極から見た地球環境」
スピーカー:石川尚人先生(京都大学大学院人間・環境学研究科)
平成16年9月25日(土)

第26回「碩学、貝を語る」
スピーカー:鎮西清高先生(京都大学名誉教授)
平成16年10月9日(土)・10日(日)

第27回「鳴き声で野生のジュゴンを探そう!」
スピーカー:新家富雄先生(株式会社システムインテック 研究センター主幹研究員)
平成16年10月16日(土)

第28回「イルカの音の世界」
スピーカー:赤松友成先生(独立行政法人水産総合研究センター水産工学研究所主任研究官)
平成16年11月13日(土)

第29回「日本のカエル」
スピーカー:松井正文先生(京都大学大学院人間・環境学研究科教授)
平成16年12月4日(土)

第30回「貝の考古学」
スピーカー:山中一郎先生(京都大学総合博物館・館長)・田中政之先生(大手前大学)
平成16年12月12日(日)


第18回のスピーカー竹内先生。レクチャーの後、春季企画展のガイドツアーをしていただいた。



第26回。二日連続で開催。スピーカーの鎮西清高先生に大学院並の内容を分かりやすくかみ砕いて説明していただいた。ノートが取れるようこの回はセミナー室で開催。