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第4回公開講座の記録(1998年11-12月)

人間と自然の共生をめぐって


 博物館の研究活動は自然界との「つきあい」である。本公開講座では,当博物館スタッフが研究活動を通じて得た知識をもとに人間と自然の共生について語り,博物館の研究活動を紹介した。


11月14日(土):日本の森林に学ぶ-21世紀の人間と自然の共生
河野昭一(総合博物館長[当時])

 日本の森林相は,コスト至上主義の森林経営,乱開発,また酸性雨などにより21世紀初頭に壊滅的崩壊すら起こしかねない危機的状況にある。しかし,つい最近まで日本の森林には地域ごとの個性を熟知した林業の伝統があり,手厚く育み,その果実をいただくという思想により保全されてきた。このような日本人と森林との関わりの伝統を手本に21世紀の人間と自然のあり方を考えるべきである。



11月121日(土):帰化哺乳類と人間活動
本川雅治(総合博物館助手)

 自然分布範囲外の地域や生態系に人為により持ち込まれた帰化哺乳類が,深刻な問題を起こしている.こうした帰化哺乳類の起源は,従来は家鼠類などの偶発的な移入であったが,最近では人間の管理下にあるペットなどの不適切な管理下での逃亡や積極的な放逐も増えている.帰化哺乳類は,在来種の捕食,生態的競合関係にある種の駆逐,植生破壊,在来種への遺伝子汚染や病気伝播,人間への病気伝播,農林水産業への損失,商品の食害や汚染など,人間活動だけでなく在来の生態系にも深刻な影響を与えている.日本の在来哺乳類相はその島嶼化の長い歴史を反映して,固有種の多さによって特徴づけられる.それが帰化哺乳類によって大きく撹乱されており,除去を含む帰化哺乳類対策が必要である.また,ペットなどをむやみに放逐しないといった哺乳類とのつきあい方に対する啓蒙活動も必要である.


ねずみ



11月28日(土):多自然型川づくり工法の実際
城下荘平(総合博物館助教授)

 従来の川づくりは防災や利水のみに主眼が置かれてきたため,水が流れやすいように両岸は単調で直線的なコンクリート護岸が整備され,また,平坦になるように川底は中州などが削り取られて整備されてきた.しかしながら,そのように整備された川からは,中州に生える水生植物や,そこに生息する昆虫が消え,垂直のコンクリート護岸壁は人々が水辺で水と戯れる機会を奪ってしまった.
 そこで,単に防災の機能を持つだけではなく,多くの自然が共存し,人々に潤いをもたらすような「多自然型」と称される川づくりが1980年代の半ば頃にスイスや(当時の)西ドイツなどドイツ語圏から始まり,その数年後にわが国でも始まった.
 本講では,宇川(京都府・峰山),木津川,久米川(三重県・上野),オカバルシ川,豊平川,月寒川(札幌市)における多自然型川づくりの施工例と,「建設省自然共生研究センター」(岐阜県羽島郡)を紹介する.


オカバルシ川「小鳥の村」(札幌市)における施工例



12月5日(土):魚と、どうつきあうか
中坊徹次(総合博物館教授)

 魚はむかしから漁業や釣りをとおして我々になじみぶかい生物である.最近はアクアリウムの普及によって観賞用の美しい小型の海産魚が身近なものになりつつある.しかし,乱獲や環境破壊などによって絶滅の危機に瀕しているものもでてきており,その対策がときに話題になる.魚の乱獲などに対処するのには,まず,魚についてよく知らなければならない.
 魚とひとくちに言っても,無顎類,軟骨魚類,硬骨魚類とまったく特徴のことなるグループからなっている.かれらの間の違いは陸上の脊椎動物の諸グループの間にある違いよりもはるかに大きい.それぞれについて,特徴を講述した.とくに,再生産の方法については詳しく説明した.軟骨魚類と硬骨魚類では再生産の方法はまったく異なっており,それは魚と「つきあう」上において大変重要な意味をもっているからである.


オムロアジ属クサヤモロと大学院生