ニュースレター

No.19(2005年2月28日発行)

表紙

表紙写真

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平成16年秋季企画展

「新世紀を創る-京都大学の工学と貴重技術史資料-」
期間 平成16年9月29日(水)~12月26日(日)
(月・火曜日休館)
開館時間 午前9時30分~午後4時30分
(入館は午後4時まで)
会場 京都大学総合博物館 南館2階 第2企画展示室

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平成16年秋季企画展によせて

はじめに

総合博物館では平成16年の秋季企画展として9月29日から12月26日まで、「新世紀を創る-京都大学の工学と貴重技術史資料-」を開催している。平成9年の総合博物館発足以来、技術史系の企画展示として、平成10年の春季企画展「福井謙一博士 -その人と学問-」、及び平成14年秋季企画展の「近代日本を拓いた物理実験機器-三高コレクションと物理学教科書から探る-」が行われているが、それらはいわば工学の一分野であり、工学部全体が主体となって行うのは今回が初めてである。企画展実行委員長の高橋康夫教授(建築学専攻)の周到で綿密な計画のもとに本企画展は実施された。なお、パネル作製等の実際的作業は京都科学が担当した。

技術史資料の重要性

我が国は明治期に欧米の先進国から近代技術を摂り入れ、やがて独自に技術を発展させ、工業製品を世界に輸出することで現在の経済大国となった。この間の技術的資料を保存し、展示することは単に記録的な意味以上に、我が国が将来にわたって誇りにできる遺産となるはずである。しかしながらこのような認識は必ずしも一般的ではない。たとえば、文化庁の「近代の文化遺産の保存・活用に関する調査研究協力者会議」の報告でも、現代につながる科学技術・産業技術等は,昭和30年代初頭までにその基礎を持つものが多く,これらに関する歴史資料等については,未だ文化遺産としての認識が一般化していないことにより,滅失の危険が大きい、と指摘している。本企画展が技術史資料についての認識が広まるきっかけとなれば幸いである。

展示資料は工学の一部分

ところで京都大学工学部には、地球工学科、建築学科、物理工学科、情報学科、電気電子工学科、工業化学科があり、工学のほとんど全ての分野にわたっている。そして技術史資料も各部署で保存されている。本企画展でこれら全ての分野を網羅することはスペース的にも現実には不可能に近い。

そこで、まずは、従来から技術史資料が展示室において展示されている部署、あるいは公には展示されていなくても資料があることが分かっているような部署を中心に行うことになった。企画展示はこれからも行われるので、最初はそのような部署を中心にして始め、展示方法などに慣れてきたら、徐々に他の部署にも中心になって展示を行ってもらうのが自然な方法であるという考えからである。いずれにせよ、1回の企画展で展示できるのは工学部全分野の限られた部分になることはやむを得ない。

企画展の三本柱

博物館でいかに重要な展示がなされようとも、それを見に来る人がいなければ意味がない。たくさんの人が見に来てくれてこそ、展示は意味を持つ。このことを考えるとき展示実績の浅い技術史資料の展示は必ずしも有利ではない。そのため観覧者の増加を期待し、以下のような3種類の展示を柱にすることが企画された。

(1)貴重技術史資料の展示

京都大学が明治30年に創立されて最初に設置された学科が土木学科と機械工学科であるように、工学部は長い歴史をもっている。しかもその歴史は我が国が近代科学技術国家になった過程とダブる。特に大学創設間もない頃に教育や研究の過程で購入されたり製作されたりしたものは他の大学にはないと考えられ、京都大学のみならず、我が国にとっての技術史遺産ということができる。なお、以下の例は工学部に保存されている資料であり、本企画展で展示されていない資料も含まれている。

(例)帝国ホテル模型、合成石油試料、約100年前に購入された機械メカニズム模型、木製蒸気機関車模型、学科創設時の卒業論文、開発初期の計算機、ノーベル賞メダル、など。

写真
京都御所で展覧に付された合成石油資料

(2)先端技術や未来の技術の展示

現在の先端技術や、将来、実用化されることが予想される(開発中の)技術を展示している。普段は目にすることがないこれらの実物を若い世代が見て将来の夢を膨らませ、技術立国日本を支えてくれるようにとの期待が込められている。

(例)リニアモーターカーの超伝導磁石、中が見える燃料電池車、音声認識ロボット、実際の巨大橋梁建造に当たって研究のために作られた実物模型、白色発光ダイオードによる照明、等。

写真
複数の話者の声を聞き分ける音声認識ロボット

(3)不思議な現象を示すおもちゃの展示・実演

単純ながら不思議な現象を示すおもちゃがたくさん展示されている。これらは牧野俊郎教授(機械物理工学専攻)によって収集されたものであり、物理科学的説明はともかく、大人も子どもも単純に遊べる。遊びながら「なぜだろう?」と誰もが一度は考えようとする。毎土曜日には牧野教授や学生が実演指導している。

(例)水飲み鳥、倒立ゴマなどの種々のコマ、スターリングエンジン、ヒートポンプ、超伝導磁気浮上、ペットボトル噴水、長安の徳利、ふく射風車等、多数。

写真
水飲み鳥とミニ蒸気機関車

展示は以上の3つを基本にしているが、これら以外にも面白い企画がある。

漫画日記
「どの展示が一番印象に残りましたか?」、「一番面白かったと思う体験おもちゃは?」などのアンケートに答えていくと、最後に自分の観覧日記が完成し、プリントアウトして持ち帰ることができる。インターネットで擬似体験することもできる。
http://www.comicdiary.com
長方形詰め込みパズル
できるだけ隙間なく寸法の違う長方形を枠の中に詰めるようにする木製の詰め込みパズルが展示してある。その側にパソコンがあり、クリックすると膨大な組合わせがある中で「レク太君」が適切な答えを示してくれる(ただし最善とは限らない)。
イラスト
「レク太君」の解答途中経過
展示配置
本企画展示場には中央におもちゃのコーナーがあり、その周囲に各分野のコーナーがあるというユニークな配置になっている。実は、このコーナーに環状的に工学の原理的なおもちゃを配置し、それに関連する分野の展示を放射状に配置し、おもちゃから自然に関連の工学へつながるようにする、というのが最初の目論見であった。おもちゃと各分野とはかならずしも繋がらなかったが、実際にはおもちゃコーナーは大変人気があり、結果としてこれでよかったのであろう。

本企画展は大人向けの展示ばかりではなく、若い世代にも見てもらうことを特に意識して企画された。詳しい原理は分からなくても、不思議おもちゃや(近)未来技術が若い世代の知的好奇心を刺激し、それが将来、技術立国日本を支える原動力になれば、この企画展は成功であると考えている。

(総合博物館助教授 城下荘平)

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平成16年秋季企画展 関連イベント

月日 曜日 イベント 担当教員
10月2~12月25日の毎週土曜日に開催 工学の智恵・遊び 夢を育む“おもちゃ”えっ?こんなのもありなんですか? 機械物理工学専攻
牧野俊郎教授
10月16日、11月20日、12月11日 大学で化学者の体験をしてみよう 材料化学専攻
松原誠二郎助教授
12月4日、11日、18日、25日 100年前ならノーベル賞
-霧箱で放射線の飛跡を見よう-
附属量子理工学研究実験センター
神野郁夫助教授

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平成16年度後期公開講座

「新世紀を創る
-京都大学の工学と貴重技術史資料-」

下記のとおり,学術情報メディアセンター北館にて開催されました。

10月9日(土)
京都大学の工学-その技術的貢献
京都大学総合博物館 助教授 城下荘平
10月16日(土)
水飲み鳥とヒートパイプ-熱力学の可視化・工学の智恵
京都大学大学院工学研究科機械物理工学専攻 教授 牧野俊郎
10月23日(土)
京都大学の貴重技術史資料-その保存・活用をめぐって
京都大学大学院工学研究科建築学専攻 教授 高橋康夫
10月30日(土)
新世紀の社会・暮らしと情報技術革命
京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻 教授 田中克己]

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【公開講座】レクチャー・シリーズ30回目開催

平成16年12月12日、総合博物館「恒例」のレクチャー・シリーズが30回目を迎えた。レクチャー・シリーズは、平成14年7月6日、客員教授として総合博物館に滞在されていた大韓民国慶北学校自然科学大学生物学科教授・朴宰弘先生の「鬱陵島の植物と山菜」という講演で始まった。韓国植物分類学の第一人者であり、流暢に日本語を語られる先生に一般市民向けの講演をお願いしたところ快くお引き受けくださったのがきっかけである。

博物学的研究や、それを行う博物館の重要性が、社会に認知されていないことは、「博物館行き」という言葉があることから容易に推察される。展示が静的に見えること、貴重な学術標本資料もお蔵入りした古くさいものという皮相的な理解に基づく、しかし根深い誤解が社会にはある。実態はこのような先入観とは全く逆で、博物館では、貴重な学術標本資料を研究・教育に使いやすい状態に維持するために恒常的にメンテナンスが行われ、それをもとに活発な研究・教育活動がなされている。また、博物館から研究者達が世界中に出かけ、調査・収集活動を精力的に行っているのである。

総合博物館では、組織が発足した平成9年から、博物館にまつわるこのような誤ったイメージを打破するための方策が練られ、対策の一つとして、平成12年に竣成した総合博物館自然史常設展示場には、約50名収容の円形劇場が設置されミューズラボと名付けられた。ミューズラボは、著名な研究者が最新の博物学的研究について親しく一般市民の人たちにレクチャーし、博物学の楽しさや博物館の重要性を積極的に一般市民に情報発信する拠点と位置づけられた。

最初のレクチャーには、一般市民25名を含む40名ほどの参加者があり、客席の半円形ベンチがほどよく埋まった。先生の講演内容については、ニュースレターno.13に記録があるので省略するが、ミューズラボという舞台仕立てと朴先生の絶妙な話術があいまって、大変な好評を博し、一般参加者からは継続の希望が多く寄せられ、二度・三度と回を重ねて30回に至った訳である。下に30回のレクチャー・シリーズの記録を掲載しておく。

レクチャー・シリーズの案内ビラには、当初「honzo-e」というサブタイトルが控え目に書かれていた。これは、市民がこぞって希有な物産・自然物を自慢し合った江戸時代の博物学ブームにあやかったもので、博物館を生き生きした場にしたいとの夢が込められたものであった。最近では、このサブタイトルは外されている。回を重ねることによって夢に近づきつつあるとの心証を得たことが理由である。

回を重ねるに従って多様な興味をもつ人々が参加されるようになった。そこで、レクチャーの話題が特定の分野に偏らないよう心がけたが、30回のレクチャーのテーマは、動物、植物、農学、魚学、地球科学、古生物学、考古学、リモートセンシングなど幅広い分野にまたがることとなった。また、ビラには、レクチャーごとに、どのような年齢、興味の人をターゲットとするかを明記して、案内を受け取った人が参加するかどうか判断しやすいような工夫も施した。「ジュニア・レチャー」、「シニア・レクチャー」といった対象年齢がはっきりわかるサブタイトル、さらには、学習意欲のとりわけ旺盛なグループ向けの、大学の集中講義レベルの高度な内容の「とっておきレクチャー」などである。

さらに、今年に入ってからは、企画展と連携したレクチャーも開催することができた。具体的には、フィールド科学教育研究センターが主担された平成16年春季企画展「森と海と里のつながり-京大フィールド研の挑戦-」開催の折り、フィールド研の先生方の協力を得て、レクチャーと展示ガイドを組み合わせた「レクチャー・ガイド」を6回開催したことである。先生方の献身的努力によって毎回午前・午後の2回レクチャーとガイドを敢行した。とりわけその多くが夏休みに開催ということもあって多くの参加者を得ることができ、レクチャー・シリーズのファンが一挙に増えることとなった。こうして、試行錯誤しながらも回を重ねるごとにレクチャー・シリーズはその開催手法や提供される話題に広がりや深みをつけながら進化途上にある。

レクチャー・シリーズには遠方の大学や研究所、企業等から講師をお願いしている。幸い今年度は、文部科学省および京都府から、それぞれ、生涯学習機会や小中学生の学習機会を提供する趣旨の事業委託を受けることができた。そこで、レクチャー・シリーズのいくつかについては、これらの委託事業の一環として開催し、先生をお呼びするのに、あるいはレクチャーの準備・開催にお手伝いいただく学生諸君に多少報いることができるようになった。レクチャー・シリーズをはじめとする総合博物館の社会に向けた活動に対して国や地方自治体からの認知をいただきつつあることは大変うれしいことである。

館に義務づけられた業務ではなく、しかも原則土曜日(時には日曜日開催)の行事である。開催に際しては、ほぼボランティアで講演いただくスピーカーの諸先生には大変甘えさせていただいている。教員だけでなく土日出勤の事務職員、あるいはお手伝いくださる学生さんたちにとってもかなりの負担をかけている。また、広報についても京都大学広報課の職員の皆さんや京都大学の記者クラブの皆さんにずいぶん甘えさせていただいている。有り難いことには、皆さんには趣旨をよく理解してくださり、ご協力いただいている。おかげで最近ではレクチャー・シリーズに何度も参加してくださる、いわゆるリピーターの方が増えてきた。シニアの方々、また小学生・中学生の親子連れの方々などで、毎回楽しそうにレクチャーを聴かれ、また時には鋭い質問をされ、レクチャーを盛り上げていただき、打ち解けて聴講できる雰囲気が醸し出され、初めて参加の人たちもやがてリピーターとなられる触媒の役目を果たしていただいている。

10月19日には京都新聞の読者の欄に、リピーターの女性の方からの投書が掲載された。一部を抜粋させていただく。「最初は植物の話しで興味津々、私にもわかった、、、先日のレクチャーシリーズno.26「碩学・貝を語る」もおもしろく楽しかった。、、、京大なんてとても近寄れないと敬遠していたけれど、どのレクチャーも勉強になり、、、分かりやすく話してくださると、何でだろう?どうして?という謎が解けていった。そして、学習することの大切さに気付いた。人間死ぬまで勉強、生涯学習だ。好奇心と少し学びたい気持ちと健康であれば、チャンスが多い世の中だ、、、」。レクチャー・シリーズに関わってきた全ての関係者に対するお褒めの言葉として有り難く受けさせていただくとともに、総合博物館において、これからもチャンスを広げるレクチャー・シリーズを開催し、参加される皆さんのご期待に応えてゆきたい。

レクチャー・シリーズ
第1回「鬱陵島の植物と山菜」
スピーカー:朴宰弘先生(大韓民国慶北学校自然科学大学生物学科教授)
平成14年7月6日(土)
第2回「7億年前、地球は凍結した?」
スピーカー:川上紳一先生(岐阜大学教育学部地学助教授)
平成14年10月26日(土)
第3回「未知なる生物の宝庫-メイオベントス」
スピーカー:白山義久先生(京都大学大学院理学研究科教授・附属瀬戸臨海実験所所長)
平成14年11月30日(土)
第4回「ヒマラヤ高山の温室をつくる植物、セーターを着る植物」
スピーカー:大場秀章先生(東京大学総合研究博物館・教授)
平成15年2月22日(土)
第5回「Downtotherootoftheanimals(化石から解き明かす多細胞動物の起源)」(英語・日本語翻訳付)」
スピーカー:M.A.フェドンキン先生(Prof.M.A.Fedonkin)(ロシア科学アカデミー・古生物学研究所教授)
平成15年3月15日(土)
第6回「地下生物圏の秘密を探る」
スピーカー:北里洋先生(海洋科学技術センター固体地球統合フロンティア研究システム・地球システム変動研究領域・領域長)
平成15年3月29日(土)
第7回「原人の世界」
スピーカー:山中一郎先生(京都大学総合博物館・館長)
平成15年4月26日(土)
第8回「ArchitektenundGӓrtnerimMikrokosmos(大型有孔虫・熱帯の庭師にして建築家)」(ドイツ語・日本語通訳付)
スピーカー:ヨハン・ホーエネッガー先生(Prof.Dr.JohannHohenegger)(ウィーン大学古生物学研究所所長)
平成15年5月18日(日)
第9回「ランビルの森 -熱帯雨林の生物学-」
スピーカー:永益英敏先生(京都大学総合博物館・助教授)
平成15年5月31日(土)
第10回「化学の目で見た生態系-アリの社会と熱帯雨林生物共生系を中心に-」
スピーカー:山岡亮平先生(京都工芸繊維大学応用生物学科教授)
平成15年9月27日(土)
第11回「コウモリの生態」
スピーカー:林良恭先生(台湾・東海大学・副教授)
平成15年11月1日(土)
第12回「メコン川でオオナマズを追いかける」
スピーカー:荒井修亮先生(京都大学大学院情報学研究科・助教授)
平成15年11月29日(土)
第13回「日本人と木材、つきあいの歴史」
スピーカー:鈴木三男先生(東北大学総合学術博物館館長)
平成15年12月3日(土)
第14回「今西錦司の遺業-新たな展望」
スピーカー:パメラ・アスキス先生(カナダ・アルバータ大学教授、京都大学総合博物館客員教授)
平成16年1月7日(水)
第15回「マダガスカルの爬虫類とその多様性」
スピーカー:疋田努先生(京都大学大学院理学研究科・助教授)
平成16年2月8日(土)
第16回「京都大学の所蔵する鉱物標本の整理・登録とデータベース作成まで」
スピーカー:豊遙秋先生(元工業技術院地質調査所地質標本館館長)
平成16年3月27日(土)
第17回「琉球列島の化石鳥類相の研究~化石から探る、生態系の過去-現在-未来~」
スピーカー:松岡 廣繁先生(京都大学大学院理学研究科・地質学鉱物学教室 助手)
平成16年4月24日(土)
第18回「日本人と森」
スピーカー:竹内典之先生(京都大学フィールド科学教育研究センター教授)
平成16年6月5日(土)
第19回「森林生態系のしくみ-水土保全機能について」
スピーカー:徳地直子先生(京都大学フィールド科学教育研究センター助教授)
平成16年7月10日(土)
第20回「魚の赤ちゃんの大冒険」
スピーカー:田川正朋先生(京都大学フィールド科学教育研究センター助教授)
平成16年7月31日(土)
第21回「森からの宅配便」
スピーカー:芝正己先生(京都大学フィールド科学教育研究センター助教授)
平成16年8月7日(土)
第22回「若狭の海の水中散歩」
スピーカー:益田玲爾先生(京都大学フィールド科学教育研究センター助教授)
平成16年8月14日(土)
第23回「無用の用“自然?環境?森の働き?”」
スピーカー:中島皇先生(京都大学フィールド科学教育研究センター講師)
平成16年8月21日(土)
第24回「植物を求めて中国秘境探検」
スピーカー:内貴章世先生(大阪市立自然史博物館学芸員)
平成16年9月18日(土)
第25回「南極から見た地球環境」
スピーカー:石川尚人先生(京都大学大学院人間・環境学研究科)
平成16年9月25日(土)
第26回「碩学、貝を語る」
スピーカー:鎮西清高先生(京都大学名誉教授)
平成16年10月9日(土)・10日(日)
第27回「鳴き声で野生のジュゴンを探そう!」
スピーカー:新家富雄先生(株式会社システムインテック 研究センター主幹研究員)
平成16年10月16日(土)
第28回「イルカの音の世界」
スピーカー:赤松友成先生(独立行政法人水産総合研究センター水産工学研究所主任研究官)
平成16年11月13日(土)
第29回「日本のカエル」
スピーカー:松井正文先生(京都大学大学院人間・環境学研究科教授)
平成16年12月4日(土)
第30回「貝の考古学」
スピーカー:山中一郎先生(京都大学総合博物館・館長)・田中政之先生(大手前大学)
平成16年12月12日(日)

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第18回のスピーカー竹内先生。レクチャーの後、春季企画展のガイドツアーをしていただいた。

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第26回。二日連続で開催。スピーカーの鎮西清高先生に大学院並の内容を分かりやすくかみ砕いて説明していただいた。ノートが取れるようこの回はセミナー室で開催。

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【研究ノート】京都大学総合博物館 標本データベースの構造

1.はじめに

周知のように、日本の博物館は諸外国の博物館のように十分な数の学芸員を配置している例はほとんどない。そこで、博物館に収蔵されている標本を効率よく活用するために、コンピュータを活用すべく、多くの博物館では収蔵標本のデータベース化が進められている。しかし、標本と種名は直接関連付けられている従来型の博物館データベースシステム(図1)は、簡便にデータベースが構築でき、当該分野における分類検索には非常に効率的である反面、異分野の標本を同一システムで取り扱えないという欠点を有す。

そこで、標本と種に対し個別IDを付与することにより、異なる複数の分野のデータを入力しても安定的に動作するデータベースの構築を目指し、京都大学総合博物館標本データベース型データベースシステム(以降KUMC型DSと称する)を開発した。

図1 従来型標本データベースの概念図。
図1 従来型標本データベースの概念図。

標本と種名は同一テーブルに記述される。標本から発生した標本番号と標本関連情報を、種名から発生した分類コードと分類学的情報を関連付ける。

2.従来型データベースの問題点

図1で示すように、標本に名称である種名があるのは分野によらない。ところが何を一つの標本とみなすか、もしくは何を一つの種類とみなすかは強く分野に依存している。その問題点を要約すると(1)標本の場合では、「どのような単位を」一つの標本とみなすかは強度に分野依存的である。例えば、魚類液浸標本ではバケツなどに入っている複数個体を一つの標本とみなすが、植物さく葉標本では個体の一部である一枚のさく葉を一つの標本とみなす。

(2)種名の場合では、「どのような単位に対して」一つの名前をつけるかは強度に分野依存的である。例えば同じ岩石系標本でも、岩石学的記載によれば特定の鉱物の組み合わせに対して一つの岩石名をつけるが、鉱物学的記載によれば一つの名称が与えられるのはその岩石中の一部にすぎない。

異分野統合型データベースでは(1)、(2)のいずれの場合においても、各分野で記載されている一つの標本、一つの種を等価とみなしてデータベースを構築しなければならないが、従来のシステムでは、全ての分野において記述されている一つの標本の概念、一つの種の概念を等価とみなしてデータベースを構築することはきわめて困難であった。そのことがこれまで分野横断型標本データベースの構築が困難とされてきた理由である。

そこで、KUMC型DSでは後述のように一つの標本、一つの種の単位を決定し、データベースを構築した。

3.KUMC型DSの原則

KUMC型DSは、以下の原則に従う。データベース内では、1.標本と種名にはそれぞれ独立のIDを付与し、完全分離して管理する2.標本につけられた固有IDには標本にかかわる固有情報のみを関連させる3.種名につけられた固有IDには種にかかわる固有情報のみを関連させる4.標本につけられた固有IDと種名につけられた固有IDを基準にデータベースを運用する

KUMC型DSにおけるひとつの標本

自然界の物質は、標本として記載されるまで、複数の異なる記載が行われる可能性がある。ここで仮にある物質が一つの標本となりうるにたる条件を満たしている事を一つの標本になりうる可能性という意味で「標本単位」と記述すると、自然界にあるいかなる物質もひとつもしくは複数の標本単位で構成されているとすることが出来る。KUMC型DSでは、1つの標本単位の物に対し、一つの標本IDを与える。

標本の採集者が、その属する学問領域の慣習に従い物質を「標本」として採集してきた場合、その学問領域の標本単位を満たすように標本を採集し、その記載を行うが、採集の方式によっては他の標本単位を満たすような採集(岩石標本として採集された物が鉱物標本として記載される場合など)が行われる場合も少なくない。

一つの標本IDに対し、異なる複数の分野の種IDを付加することが可能なKUMC型DSでは、採集者の属する学問領域を超えての標本の記載とその記載情報のデータベース化が可能であるため、一つの標本の分野横断的利用を可能にする。ただし、標本管理・運用上の混乱を避けるため、KUMC型DSを多分野対応型標本データベースとして運用する場合、いかなる標本も、特定の標本IDがどの標本のどの範囲に対して与えられたかを厳密に記述して、IDを割り振る必要がある。

KUMC型DSにおけるひとつの種

生物の種名のように、ある分野において定義された再現可能な形で分類された特定のグループを「名称単位」と記述すると、自然界にあるいかなる物質も一つもしくは複数の名称単位に属しているとすることが出来る。KUMC型DSではこの一つの名称単位に対して、ひとつの種IDを与える。

この場合、分野(分類方式)によっては、一つの種IDが別の種IDの部分集合である場合が考えられるので、種IDの示す領域は厳密に記述され、IDが割り振られる必要がある。なお、データベース内に登録されている種IDには、後述するような種に関する一般的情報のみが関連している。そのため、既存の他の標本データベースとは異なり、対応標本がなくとも、種IDの登録が可能である。

4.KUMC型DSの構造

上記の原則にのっとり、KUMC型DSでは、データベースに登録する物(標本)には、個別の識別番号を割り振る(これを標本IDと呼ぶ)。また、データベースに登録される種類(種名・岩石名など)には、個別の識別番号を割り振る(これを種IDと呼ぶ)。標本は標本IDとのみ、種名は種IDのみと直接関連し、標本IDと種IDからなる共通テーブルを構築する(図2)。

図2 KUMC型DSの概念図

図2 KUMC型DSの概念図。

KUMC型DSでは標本はまず標本単位に、種名は名称単位に区分される。標本単位と標本ID、名称単位と種IDの関係は分野非依存で決定しているので、標本IDと種IDからなる分野非依存の共通テーブルが構築できる。標本関連情報は標本IDと分類学的情報は種IDとそれぞれ関連付けることにより、登録されている全情報を検索することが可能となる。

データベース内の全ての情報管理をこの共通テーブルを中心におこなうことで、標本や種は分野横断的に利用できる。次に、標本の特性により発生する情報は標本IDと、種の特性により発生する情報は種IDと関連付けを行ない、リレーショナルデータベースシステムの方式を用い、データベースを運用する(図3)。

KUMC型DSでは、データベース内に登録されている物は全て必ず1つの標本IDを保有し、登録された物のどの範囲がそのIDに含まれるかは登録が行われたときに決定される。

データベース内で一つの標本IDが他の標本IDの部分集合であることは妨げない。また、複数の標本の一部に対して新たな標本IDを付与することも可能である。

有効な情報の検索のためには一つの標本IDに対して、最低1つの種IDが対応することが望ましいが、標本IDのみを登録し、種IDとの関連付けを行なわないことも可能である。

標本IDに関連する情報
標本IDと直接関連付けられる情報は、標本の管理に必要な情報(たとえば、標本の保管場所、標本の採集者・採集場所など)と標本の運用に必要な情報(掲載論文、標本番号、化学組成、遺伝学的情報など)である。
種IDに関連する情報
種IDと直接関連付けられる情報は、種に関する分類学的情報(属名、科名など)、種の共通的特性に関する情報(分布域の気象条件、形成条件)である。

データベースからのデータの検索は

  1. 種名等の種IDに関連する情報を種IDから検索する
  2. 共通テーブルから種IDと標本IDの相互関係を検索する
  3. 標本の保管場所等の標本IDに関連する情報を検索する

の3つを適宜組み合わせることで実現する。

5.まとめ

これまで多くの博物館などで構築されてきたデータベースの限界を超えて、KUMC型DSは異なる分類体系で記述されている標本を分野横断的に同一システム下で管理することを可能とした。また、それに付随して、未記載標本の登録や(標本が紛失した場合など)標本がない状況下でも種名の登録を行なうことが可能になった。これは、標本の分類・記載に関連して新たに標本単位と名称単位の概念を創造し、そこから標本ID、種IDを創生し、標本に関わる情報とその分類・記載に関わる情報を個別符号化して管理するシステムを構築したことにより実現したものである。

さらに、この物と分類・記載学的情報の個別符号化により、KUMC型DSは以下の状況にも対応できるシステムとなった。

  1. 同一標本の分野横断的活用とその支援
  2. 分類学の進歩に伴い発生する分類項目の分割・新設・統廃合

の3つを適宜組み合わせることで実現する。

なお、KUMC型DSの運用として、上記二点およびそれに付随する問題が挙げられるが、これは稿を改めて詳細に議論されるべきであると考え割愛した。

図3 KUMC型DSの運用模式図

図3 京都大学総合博物館標本データベースにおけるKUMC型DSの運用模式図。標本IDと種IDからなる共通テーブルに対し、標本管理に必要情報をまとめた「管理支援情報テーブル」標本の活用に必要な情報をまとめた「研究支援情報テーブル」を設け、より運用しやすいシステムとしたものである。なお、図2で述べるところの標本関連情報を「標本の管理に必要な情報」と「標本の運用に必要な情報」に、分類学的情報を「種に関する分類学的情報」と「種の共通的特性に関する情報」に分割し、管理支援情報テーブルと研究支援情報テーブルに分配している。

(神戸大学自然科学研究科研究生/京都学園大学非常勤講師 坂元尚美)

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京都大学総合博物館日誌(平成15年7月~12月)

  • 第 7月 3日 第15回公開講座(6/12,6/19,6/26)
  • 第 7月10日 レクチャー・シリーズno.19「森林生態系のしくみ-水土保全機能について」
  • 第 7月11日 「竹のクラフト・アーティスト二人競演」クラフト実演
  • 第 7月16日 第82回教員会議
  • 第 7月22日 総合博物館・人文研アカデミー特別セミナー「ジャズと表現」
  • 第 7月23日~7月25日 「割り箸細工」実演
  • 第 7月31日 レクチャー・シリーズno.20「魚の赤ちゃんの大冒険」
  • 第 8月 7日 レクチャー・シリーズno.21「森からの宅配便」
  • 第 8月 7日 外国人共同研究者 マルセロ・サンチェス-ヴィラグラ氏(ドイツ・チュービンゲン大学動物学講座助教授)来学
  • 第 8月14日 レクチャー・シリーズno.22「若狭の海の水中散歩」
  • 第 8月20日 外国人共同研究者 マルセロ・サンチェス-ヴィラグラ氏帰国
  • 第 8月21日 レクチャー・シリーズno.23「無用の用“自然?環境?森の働き”」
  • 第 8月25日~8月29日 夏休み学習教室(第4回)
  • 第 8月25日 「カリンバ・カリンバ・カリンバ」実演
  • 第 8月26日 運営委員会委員懇談会
  • 第 8月26日~8月29日 「割り箸細工」実演
  • 第 8月27日 「森と里と海のつながりを奏でる」尺八実演
  • 第 8月29日 平成16年春季企画展「森と里と海のつながり-京大フィールド研の挑戦-」終了
  • 第 8月31日 外国人研究員 ユー・ホンチェン氏帰国
  • 第 9月 1日 外国人研究員 サバッチ・エンリコ氏(スウェーデン王国・ウプサラ大学地球科学研究所上級講師)来学
  • 第 9月 4日 レクチャー「貝を調べる」
  • 第 9月 4日~毎週土曜日・日曜日(秋季企画展示期間は毎週日曜日のみ)レクチャー「見てさわって感じる自然科学・科学技術ー大学院生といっしょに最先端の研究にふれようー」
  • 第 9月18日 レクチャー・シリーズno.24「植物を求めて中国秘境探検」
  • 第 9月25日 レクチャー・シリーズno.25「南極から見た地球環境」
  • 第 9月29日 平成16年秋季企画展「新世紀を創る-京都大学の工学と貴重技術史資料-」開催
  • 第10月 8日 第83回教員会議
  • 第10月 9日・16日・23日・30日 第16回公開講座
  • 第10月 9日 レクチャー・シリーズno.26(前半)「碩学、貝を語る カキの生活と進化 二枚貝の形の意味」
  • 第10月10日 レクチャー・シリーズno.26(後半)「碩学、貝を語る 日本の浅海貝類群の起源」
  • 第10月16日 レクチャー・シリーズno.27「鳴き声で野生のジュゴンを探そう!」
  • 第10月24日 おやじの会フォーラム「大文字山の如意寺について」「大文字山の地質について」
  • 第10月30日 シニア学習教室「貴屓貝介?大人のための二枚貝教室」
  • 第10月31日 おやじの会フォーラム「大文字山の如意ヶ岳城と中尾城について」「大文字山の動物について」
  • 第11月 6日・7日 「京の博物館合同企画展 ミュージアムロード2004」
  • 第11月12日 第84回教員会議
  • 第11月13日 レクチャー・シリーズno.28「イルカの音の世界」
  • 第11月30日 外国人研究員 サバッチ・エンリコ氏帰国
  • 第12月 1日 外国人研究員 リ・ゼソク氏(韓国・高麗大学日本学研究所研究助教授)来学
  • 第12月 4日 レクチャー・シリーズno.29「日本のカエル」
  • 第12月10日 第85回教員会議
  • 第12月12日 レクチャー・シリーズno.30「貝の考古学」
  • 第12月25日・26日 「第1回ミクロワールドサイエンスショー」「自然史ガイドツアー」
  • 第12月26日 平成16年秋季企画展「新世紀を創る-京都大学の工学と貴重技術史資料-」終了