ニュースレター

No. 3(1997年7月29日発行)

新館建物企画設計プラン完成

京都大学総合博物館新館建物の企画設計プランかたまる

平成9年4月1日に、教官スタッフ9名(教授3名、助教授3名、助手3名)、事務官4名をもって組織のたち上げ、実質的な研究、教育活動、マルチメディアを活用したさまざまな学術情報の提供など、自然史・技術史に関する学術情報を国内外に発信する活動を活発に行ってきたが、京都大学施設部との連携のもとに、平成10年度概算要求案の基礎となる自然史分野を中心とする博物館建物の企画設計プランの検討を進め、このほどその大綱が決定された(表紙の新建物イメージ図および3-4ページの設計図参照)。

新建物の建設予定地は、東大路通りに面した現在の総合博物館(文化史部門)(旧文学部博物館)の南側で、地上1階、地下3階、総面積6545平方メートルで、現有の他の建物ともよく調和のとれた設計プランとなっており、建設が完了した暁には新たな京大の名所が出現することになる。

建物の設計は国立大学の博物館としては、東京大学総合研究博物館に次いで2番目の施設となるが、はじめて機能を重視した本格的な構造となっており、200万点を越える学術標本資料の収蔵、各種の展示(収蔵展示、常設展示、企画展示、新発見の話題を取り上げるトピックス展示)、活発な研究・情報発信活動の中枢(資料基礎調査系、資料開発系、情報発信系)となる3つの大きなコンパートメントからなり、きわめてバランスのとれた設計プランとなっている。この企画設計案にのっとり、将来予算化が進んだ暁にはさらに具体的な実施設計プランに着手することになる。

京都大学総合博物館設立の意義

京都大学総合博物館は、既存の旧文学部博物館を併合して、自然史分野、技術史分野を含む新たな施設として4月1日より組織が先行してスタートしたが、この構想は10年以上にわたる歳月をかけ、京都大学における多数の学部・研究施設、とりわけ理学部、農学部、総合人間学部(計画発足当時、教養部)、薬学部、並びに霊長類研究所、東南アジア研究所、文学部などが中心となって、自然史科学、人文科学分野を統合した新たな京都大学の施設として計画されてきたものである。計画推進に当たっては、昭和62年当時より西島安則前総長をはじめ、寺本英(故人)、日高敏隆(現滋賀県立大学学長)、鎮西清隆(現大阪学院大学教授)氏ら、歴代の理学部長がその強力な推進役となって、今日の構想案までようやくこぎ着けたものである。とくに自然史科学の分野にとっては、京大はもとより全国でも待望久しい拠点施設であり、その意味でも本年、1997年その創立100周年を迎えた京都大学にとっては、正に記念すべき全学共同利用施設の立ちあげであるといえよう。

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総合博物館 Q&A

Q:京都大学に所蔵されている自然史標本資料にはどんなものがあるのですか?(京都市在住、主婦、39歳)
A:現在,京都大学には100年にもわたって収集されてきた200万点におよぶ自然史資料が保存されています。その中には、「すみわけ理論」で有名な今西錦司博士収集の昆虫標本のような、著名な研究者のコレクションも多数あります。またエゾカワウソなどのように、すでに絶滅した多くの生物も含まれています。新種を見つけたとき、その「戸籍原簿」となる「タイプ(基準)標本」も多数存在します。これらは、文化財でいえば国宝や重要文化財に匹敵する重要な標本です。
Q:研究が終わった標本をわざわざ保存しておく意味なんてあるのですか?(京都市在住高校生、男性、17歳)
A:最近、火星から降ってきた隕石中から生命の痕跡らしきものが発見され、話題になりました。また、映画『ジュラシック・パーク』で御存知のように、化石からDNAを取り出すこともできるようになりました。隕石や化石が採集された当時、それがこのような研究につながるとは誰にも予測できませんでした。研究試料(一次資料)そのものを残しておけば、将来、分析・観察技術の進歩とともに、さらに新しい発見が生まれることが期待されます。自然史標本試料は、いつまでも新しい知的生産のための未知の情報を秘めた「学術資源」であり続けます。
Q:博物館は標本の倉庫ですか?(滋賀県大津市在住、自営業、男性、55歳)
A:貴重な標本資料を整理し、収蔵しておくことは博物館の重要な仕事で、資料の倉庫であることも博物館の一つの役割です。しかし、資料を収蔵しておくだけでは普通の倉庫です。博物館は探究心に満ちた研究者や、研究に必要な適切な研究機器が存在する知的生産の場でなければなりません。総合博物館は、校倉(あぜくら)に最新研究設備を合体した、いわば、21世紀の正倉院を目指します。
Q:最近、ディジタル博物館が話題になっていますが?(大阪府枚方市在住、自営業、男性、53歳)
A:総合博物館に収蔵される標本の数は前述のように膨大です。それらを即座に利用できるように資料の画像やDNA等の種々の情報をディジタル化し、電子の符号として保存します。そうしておけば、インターネット等によって世界中からその情報を即座に複数の人が手にいれることが可能になります。いわば、従来の博物館の他に、もう一つの目に見えない博物館ができることになります。
古文書や美術品など、取扱いの難しい資料についても、ディジタル化しておけば、半永久的に資料情報を保存しておくことができ、研究や展示の際にも破損や劣化の心配がありません。
このように総合博物館はディジタル化も推進して、従来の博物館よりも利用しやすいものとなるでしょう。
Q:総合博物館では展示はしないのですか?(東京都在住、出版編集者、女性、36歳)
A:もちろん展示をします。日本で一番多くのノーベル賞受賞者を出してきた京都大学の博物館にふさわしいものにします。最先端の研究成果を紹介し、学内外の研究者や学生の独創的研究意欲を刺激するような、創意に満ちた展示にします。
Q:京大は一般には近寄りがたい雰囲気がするのですが?(京都市在住、公務員、女性、22歳)
A:総合博物館は、社会に向かって開かれた施設として、大学の近寄りがたいイメージを打ち破ります。研究が細分化、先端化されるにしたがい、部外者にはそれらの研究は難解なものになりがちです。総合博物館では、最新のマルチメディア技術を駆使し、最先端の研究成果をわかりやすく紹介します。見るだけでも楽しく、見終わった後で科学や大学に親しみを覚えていただけるような施設にします。
Q:単に楽しい博物館というだけでは、社会の支持を得られないのではありませんか?(東京都在住、NGO関係者、女性、58歳)
A:若者の理科系離れ現象は、技術立国であるわが国の将来の発展を根底から覆す危惧をいだかせます。総合博物館では、魅力ある展示や博物館友の会(近く作る予定です)の行事・公開講座などの博物館の活動を通じてつねに若者の知的好奇心を刺激し、次代をになう中・高校生の理科系離れの阻止に寄与します。
また、子供達が、楽しみながらも、展示を見ることによって命の尊さや自然保護の重要性が理解できるようにします。
20世紀に人類は、天然資源・化石燃料を大規模に消費することによって、さまざまな便利さを享受してきました。しかしその一方で、このままでは自らの生存環境をも破壊しかねない危機的状況を生み出してきました。ながい地球の歴史のほんの端っこに顔を出した生物、ヒト。総合博物館では、常に、人類と地球との共存を視野に入れて、活動をするように努めてゆきたいと考えています。
Q:帰国してからも京大のことを知りたいのですが?(ドイツ在住、元京大留学生、女性)
A:多くの方々に総合博物館のことを知ってもらえるように、このホームページを開設しました。充実したものにすべく、日々、頑張っています。日本語版だけでなく、広く世界の人々にも総合博物館に親しんでもらえるように、英語化にもつとめます。
また、将来は所蔵標本のデータベースも発信しますのでご期待下さい。

1997年5月