特別講演 「21世紀の関西像」 梅棹忠夫氏 〈聞き手/端 信行氏〉
(関西国際空港)
梅棹 ご紹介いただきました梅棹でございます。本来ならば、こういう場合には私は、お話申し上げる内容を、完全原稿にして用意してくるはずでございますが、ちょうど10年ほど前から失明しておりますので、原稿を書くことも読むこともできません。それでこのように端教授との対談という形を取らせていただきます。準備も何もできておりませんので、端教授の操縦にお任せ致します。聞き役、引出し役をどうぞよろしくお願いします。 端 それでは早速、始めさせていただきたいと思います。今、梅棹先生は端の操縦にまかせるとおっしゃいましたが、今日は、梅棹先生の特別講演ということですので、事前にお打合せをして、大体どういうお話になるのかをきっちり確認いたしておりますので、実際に原稿を書かれたのと同じ結果になると思いますが、私の方から切り出し役をさせていただきます。
先程、山田大阪府知事のご紹介にもありましたように、本年は「共生」というテーマ「世界都市関西」をアピールしていこうということで、梅棹先生のご講演のテーマは「21世紀の関西像」という大きなテーマになっております。会場は、つい先日オープンしたばかりのりんくうゲートタワービルというところで、53階の控室からは真下に関空を眺めることができました。梅棹先生、関西国際空港が開港して早や2年、すっかり関空が定着してきたという印象ですが、いかがでしょうか。梅棹 関西国際空港ができまして、まもなく見に行きました。私は何も見えませんので、ただ広い空港内を歩いて、バスで一周しただけでございます。大変結構なものができて関西のためによかったと思います。定着してきたとは思いますが、私個人の都合を申しますと、私は千里に住んでいますので非常に不便になりました。以前でしたら、世界中どこへ行くにも伊丹からスッと行けたわけです。伊丹は私の家から15分です。ところが、関西国際空港になりますと、家から2時間はかかるでしょう。 端 車でスッとこられても、1時間くらいはかかりますね。 梅棹 関西全体の利便という点から言いますと、必ずしもよくなっていない。 端 国際便は関西国際空港に集中していますからね。 梅棹 空港自身の利便性という部分では、関西国際空港はまだ未開発の部分が相当あるように思います。関西の未来を考えますと、どういうふうに空港が関西の未来に組み込まれていくのか、私にはまだちょっと見えていない。 端 それは単に、2期工事を完成すればいいという問題でもなさそうですね。 梅棹 そうではないと思います。もちろん2期工事は必要です。今、20世紀末に空港を新たに作るというのに、滑走路1本というのはどういうことか。始めから3本か4本作っておくべきだと、私は考えています。 端 関西圏の広がりから考えますと、国際空港はもう少し多様にあってもいいと思いますね。 梅棹 空港というものは、21世紀の社会を考えましたら、ものすごく大きな意味を持っている。韓国にしてもシンガポールにしても、アジア各国で大きなものを作っている。各国とも競争で巨大空港の開発をやっているところでしょう。それなのに、こんなちっぽけな空港を作ってどうするのか。この空港ができたことによって日本は決定的にアジアの中心から外れたという見方をしている。これではとてもアジアの中心として機能を果たすことはできないと思うんですけどね。そういう点ではかなり悲観的なんです。 端 かねてから、先生は21世紀に関してはかなり悲観的な論を展開しておられますが、そういう意味では空港問題もその一つの鍵として重要だと。 梅棹 そうだと思います。将来のことを考えますと、ひどい言い方になりますが、関西国際空港ができたということは、日本没落の象徴であろうかというくらいに考えております。 端 「世界都市関西」という立場から、関空に期待する声も大きいのですが。 梅棹 それは多いです。ないよりマシですけどね。(笑)アジアにおける、世界における関西の位置づけを考えたら、とてもこんなことで済む話ではないと思うんです。何倍かの空港が必要です。 端 現在の、やっとできた関空で、航空路線も増えておりまして、利用客も年々増えているという中で、現在の関空ですらその機能はずいぶん評価される面がある。そのことを考えると逆に、先生としては歯がゆいという感じですか。 梅棹 歯がゆい。 端 もっとちゃんとしたものを作っておけと。 梅棹 そうなんです。お役所仕事は常にそうですが、需要があって、その需要を満たすようなものを作る。需要の先を見越してやることは大抵できない。やむを得ないのかもしれません。しかし、現に空港もパンクでしょう。大体、成田の空港も滑走路1本です。空港という点だけとりましても、日本国家は21世紀の世界に、どう対応していくのか。誠に心細い。しかも関西国際空港は民間の手で作ったものです。本当は政府が全部出資してやるべきものです。当然のことです。しかし、東京政府は全く信頼できない。成田は国費で作りました。羽田空港も国費で立派になった。にもかかわらず、なぜ関西国際空港は政府がやらなかったのか。非常におかしいことだと思います。政府は、東京以外は日本と認めていないというところがあるんですね。
東京政府は関西に東京以上のものを作ることは断固として許さない。東京が最上であって、ほかは二流品、三流品でよろしいという思想があります。これは関西にとって許しがたいことです。
関西というところは非常に生産力の高い土地でございます。東京政府にずいぶんの上納金を納めています。それが関西にどれくらい還元されているのかを考えますと、大体2割だそうです。8割は東京が取りあげている。我々関西が収奪されている。植民地扱いです。そういう構造が現実にあるんです。関西国際空港はそれの現れの一つです。こんなところには上等なものはいらんという歴然たる思想が中央政府にあります。私は腹を立てて、そんなことなら関西は独立の政府をつくりましょうといっているんです。東京政府は信頼できないから、関西独立政府をつくりましょうというくらい考えているんです。やや過激な発言になりますけどね、そういう危機感も持っているんです。端 そういう意味では、このりんくうゲートタワービルという場所は、先生を過激にする場所ということになりますね。