本年度からキックオフする新レクチャーシリーズでは、先端研究をリードする本学研究者の魅力を当館館長が対談形式で引き出す新しい開催スタイルに挑戦しています。対談の中では研究の概略だけでなく、研究を進める上での苦労話や、日々の研究生活などにも触れ、多くの聴講者に先端研究に対して親しみを感じてもらえるような形態を模索していきます。
第4回(no.142)「幸福の神経基盤の解明」開催報告
■ささやかな幸せとは何ですか?
■マインドフルネス瞑想について知りたい
◆マインドフルネス瞑想は、上座部仏教のヴィパッサナー瞑想などを参考にして、カバットジン博士が開発した手法です(参考文献として、カバットジン、2007「マインドフルネスストレス低減法」)。心に浮かぶ内容をありのままに観察します。特に呼吸を手がかりとして活用します。マインドフルネス瞑想によって、慢性疼痛やうつ病に改善効果が見られたといった報告があり、主観的幸福を高めたり楔前部体積を増大させたりといった報告もあります。
■脳に良い食べ物や脳を鍛える活動は?
◆魚が多目の食事や、定期的な有酸素運動に、脳(楔前部を含む)の体積へのポジティブな効果があったことが報告されています。
■神経科学研究において、MRIと質問紙の相関をとる以外のやり方は?
◆神経科学研究では一般に、脳機能の研究のため、破壊・刺激・記録という方法が用いられます。MRIを用いて質問紙との相関を調べる今回の方法は、記録法と言えます。この他、脳の一部を損傷した患者群を対象にして健常群との質問紙における違いを見たり(破壊法)、脳に電気刺激を与えて質問紙への影響を調べたり(刺激法)といった方法が考えられます。
■「相関関係は因果関係の証拠にはならない」とはどういうことですか?
◆今回のMRI研究の結果は、楔前部体積と主観的幸福という2つの変量の間に正の相関関係があることを示すものでした。しかし相関関係のみでは、生まれつき楔前部体積が大きいヒトが主観的幸福を感じやいのか、あるいは主観的幸福を高める生活をしたら楔前部体積が大きくなるのか、といった原因と結果の関係(因果関係)について知ることはできません。因果関係を知るためには、相関関係の検討に加えて、時間的な順序を調べたり、他の変数の影響を排除したりする必要があります。