これは歯車の歯が一枚ずつ間欠的に送られることで、ゼンマイに蓄えられたエネルギーが一気に解放されないようにするための機構です。逃し止め機構、あるいは、エスケープメント(Escapement) 機構と呼ばれています。ゼンマイに直結している冠型歯車(Crown gear)と、同じ軸に歯Aと歯B、および重り(Weight)が取り付けられたテンプ(TENPU:はずみ車)とからなっています。ただし、歯A(Tooth A)と歯B(Tooth B)は、一方が冠型歯車の歯間に入っているとき、他方は冠型歯車の歯間の外側に出ているように互いに一定の角度をもって軸に取り付けられています。また、冠型歯車である必要はなく、機巧図彙では、前述の「発進と停止の機構」図の円盤(c)のように図説されています。
上図で、冠型歯車が反時計方向に回転すると、歯Aは冠型歯車の歯に押されて(上から見て)時計方向に回転し、歯と歯の間を抜け出します。それと同時に歯Bは冠型歯車の歯と歯の間に入り、次に冠型歯車の歯に押されて反時計方向に回転します。歯Aと歯Bは同一軸に取り付けられているので、テンプの軸は右回転と左回転を交互に繰り繰り返します。
すなわち、冠型歯車が回転するためには、必ずテンプを時計回り、反時計回りに交互に回転させなければならないので、冠型歯車の歯は一枚ずつ間欠的に送られ、したがって回転速度は遅くなります。このとき、重りを重くする程、回転速度はより遅くなります。
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