イベント

2016 Lecture series -研究の最先端-開催報告(no.141)

実施日:

 本年度からキックオフする新レクチャーシリーズでは、先端研究をリードする本学研究者の魅力を当館館長が対談形式で引き出す新しい開催スタイルに挑戦しています。対談の中では研究の概略だけでなく、研究を進める上での苦労話や、日々の研究生活などにも触れ、多くの聴講者に先端研究に対して親しみを感じてもらえるような形態を模索していきます。

第3回(no.141)「みんなの知らないシロアリの秘密」開催報告

 第3回は、身近にいるけどよく知らないシロアリについて研究されている京都大学農学研究科の松浦健二教授にご登壇いただきました。企画展「虫を知りつくす 京都大学の挑戦」が開催中であり、まさに「虫好き子供が大人になったら・・・」と感じさせていただくようなお話が数々ございました。

 当日、レクチャーの中でもたくさんの質問にお答えくださいましたが、その場で回答しきれなかった他の来館者の関心事にも丁寧な回答をご準備してくださいましたので、一部ではありますがホームページ上で共有させていただきます。

 

■なぜシロアリを調べようと思ったのでしょうか?
社会性昆虫の研究をする目的で京都大学の昆虫研(現昆虫生態学研究室)に入りましたが、当時、血縁選択の研究で半倍数性のアリやハチの研究は隆盛期でしたが、二倍体のシロアリの社会進化については未知の課題が多く残されていました。やり方さえ自分で切り拓けば、シロアリの生態研究にはきっと面白い発見がたくさんあるだろうと予感していました。
 

 先生の幼いころ、どのような少年時代を過ごされたのですか?

岡山の田園風景の中で育ったので、仲間と一緒に川や田圃や原っぱで様々な生き物を捕って帰っては飼っていました。庭に自分で鶏小屋を建てて二十羽以上のニワトリを飼っていましたし、カイコを5000匹飼って毎日観察日記をつけて小学校の先生に見てもらっていました。ソフトボールも弱小チームのキャプテンだったりで、とにかくテレビゲームをやったり学習塾に通ったりするような暇はありませんでした。子どもの頃、与えられたもので「遊ばされる」ことに慣れなくて良かったと、大学で研究を始めてから思いました。
 
■危険な目に遭ってまでもこのような情熱を起こさせるものはなんでしょうか?
自分たちが「その真実」を解明しなければ、おそらく人類はこんなに重要な事実を知らないまま絶滅していくのだろうと思うことがあります。
  
■何を一番おもしろいと感じていますか?
 自分の予想どおりに行かずにお手上げになっていた謎が、それとは別の研究と結びついてふと解ける時があります。生物の生態を解き明かす研究は、そんな複雑なジグソーパズルを解いていくような面白さがあります。
 
■CD初代女王のクローン?CCおよびDDのクローンと呼んでいいのでしょうか?
遺伝子型がCDの女王から末端融合型オートミクシスによる単為生殖で生まれてくるCCもしくはDD型の娘は、女王の遺伝子のみで出来ていますが、女王のクローンではありません。一般向けには「分身」という表現を使ったりしますが、科学用語としては半クローン(half clone)という表現もあります。
 
■巣のエサがなくなった場合巣はおわるのですか?シロアリはアリのように巣のひっこしをしないんですか?
ヤマトシロアリの仲間は、地下に網の目のようにトンネルを作って木と木をつなぎ、複数の木を食べて生活しています。女王や王がいる場所も、その木を食べ終えたら他の木に移ります。10メートル以上離れていてもトンネルでつないで行き来するという報告もあります。
 
■クローン社会にはリスクはないのでしょうか?
クローン繁殖は有性生殖に比べて増殖効率が倍になりますし(卵を産まない雄を作らなくてよいので)、社会性昆虫では巣の中の血縁度も高くなるので一見好都合に思えます。しかし、遺伝子が完全に同じ個体でできた集団は、抵抗性をもたない病気に感染した場合に全滅するリスクが高くなる、環境変動に対する適応幅が狭くなる、多様な労働をこなす上で効率が悪いなどの弱点もあり、クローン繁殖は短期的な効率は良くても長期的な持続性に欠けるやり方と言えるでしょう。
  
■益虫と害虫の違いはどこにあるのでしょうか?
益虫か害虫かは人間の価値観です。例えば、シロアリの羽アリは繁殖期の鳥たちの重要な食料ですから、増えると鳥は喜ぶでしょう。日本の秋の風物詩の虫の鳴き声も、聞く人によっては騒音と感じてしまうかも知れません。昆虫のどの側面をどうとらえるかによってその基準は全く違ったものになります。
 

2016Lecture series 予定

(※題目は変更になる場合があります)

場所

  京都大学総合博物館1階 ミューズラボ

申込み

 不要(直接博物館へお越しください)

参加費

 無料。ただし、博物館への入館料は必要

問い合わせ先
 〒606-8501
 京都市左京区吉田本町 京都大学総合博物館
 TEL 075-753-3272